58-1
繁華街とは打って変わって閑静な住宅街。
庭のついた家が等間隔に並んでいる。
そのうちの一つが俺たちの新たな拠点だった。
家の中は新築同様のぴかぴか。
キルステンさんの言っていたとおり、家具もしっかりとそろっていて、俺たちはすぐにそこで生活をはじめたのだった。
3日後。
俺たちはキルステンさんに呼ばれて冒険者ギルドにやってきた。
受付でアッシュ・ランフォードと名乗ると、受付嬢は「こちらへどうぞ」と俺たちをギルド長室へと案内してくれた。
ギルド長室にはギルド長のエトガー・キルステンさんがいた。
美形だが、他人を寄せ付けない冷たさを感じる目つき。
だが、思いやりも備えているのを俺たちは知っている。
「新たな家の住み心地はどうだ」
「とってもステキです。ありがとうございます、キルステンさまっ」
「ならいい」
まさかそんなことを尋ねるためだけに俺たちを呼んだわけではあるまい。
キルステンさんは俺たちに一通の手紙を渡してきた。
なんと、王国からの手紙だった。
手紙は招待状だった。
3日後に催される王城での社交パーティー。
それにギルド長のキルステンさんは招待されていた。
「私はどうもこういうのは好かん。それに私は家族のいない独り身。だから代理としてお前たちに出席してもらう」
「わかりましたわっ」
「ごちそうをたらふく食べるのじゃっ」
「お城でのパーティーだなんてすごいですっ」
快諾したものの、招待されているのは二名。
四人の中から二人を選ばなくてはならない。
「アッシュは確定として」
「俺は確定なのか」
「プリシラもマリアもアッシュと行きたがっておるのじゃ」
となると、プリシラ、マリア、スセリの中から一人を選ぶことになる。
プリシラがおずおずと手を上げる。
立候補――かと思いきや、逆だった。
「わ、わたしは遠慮いたします」
「どうしてですの? プリシラ。あなた、アッシュとパーティーに出たいのでしょう?」
「わたしはその……」
視線をそらしながら言い淀むプリシラ。
「被差別種族の半獣がパーティーに出席したら恥だと思われる――おおかたそう思っておるのじゃろう」
スセリが彼女の言葉を代弁した。
プリシラはこくりとうなずく。
「それにわたしはあくまでアッシュさまのメイド。メイドとしての分際をわきまえなければいけません。メイドが主人とパーティーに出るだなんておかしいです」
するとマリアはこう反論した。
「今更メイドの立場だなんて気にする必要はありませんわっ。ですわよね? アッシュ」
「マリアの言うとおりだ。プリシラ、遠慮しないでくれ」
俺はにこりと微笑む。
力無く垂れてたプリシラの獣耳がぴんと立った。
そして本音を言ってくれた。
「わたし、ホントはアッシュさまとパーティーに出たいですっ。おしゃれなドレスを着て、アッシュさまのおそばに立って……」
「その意気なのじゃ」
「そうでなければアッシュ争奪戦をする張り合いがありませんわ」