57-6
バルコニーに出る俺たち。
手すりを握りながら地面を見下ろす。
……かなり高い。
ここから飛び降りるだなんてぞっとする。
「おぬしら、反発の魔法は当然習得しておるよな」
「一応、独学で覚えたが……」
「実践したことはありませんわよ」
「わ、わたしは魔法が使えませんーっ」
「プリシラはアッシュに抱いてもらうがよい」
手すりの上に立つスセリ。
俺は手すりに腰かけ、それからプリシラを抱きかかえて飛び降りる準備をする。
「ワシが合図したら一斉に飛び降りるのじゃぞ。せーのっ」
意を決して俺たちはバルコニーから飛び降りた。
すさまじい速度で落下する。
風圧で髪が、プリシラのスカートが、暴れるようにはためく。
落下しながら俺は冷静に精神を集中させ、身体に流れる魔力を掌握する。
そして地面に激突する寸前に反発の魔法を唱えた。
ふわり。
最大まで加速した落下が突然止まり、ほんの少しだけふわりと浮き上がった。
ゆっくりと着地する。
俺も、マリアも、スセリも、反発魔法に成功して無事に地上に降りることができた。
それから冒険者ギルドに帰り、ギルド長のエトガー・キルステンさんにオストヴィント邸探索の詳細を話した。
「四魔ベズエルを封じた水晶玉。それがオストヴィント邸の秘密だったわけだな」
「こんなものを持っているのが知られたら死刑は間違いないからの」
キルステンさんは水晶玉を手に取って中を覗き込んでいる。
水晶玉に映っているのは、黒い硬質の身体を持った悪魔ベズエルのおぞましい形相。
キルステンさんはいつもの冷たい表情でベズエルを見つめている。
「アッシュ・ランフォード。お前たちは以前、四魔を倒したのだな?」
「ガルディア家の家宝に封じられていたアズキエルをフーガさんと共に倒しました」
「賢人フーガ……。彼の力を再び借りねばな」
「ベズエルを倒すつもりですか!?」
俺は驚きの声を上げた。
キルステンさんの視線が俺に向く。
「四魔を倒した者がいるのだ。今回もそうすべきだろう」
「で、ですけど……」
「なんだ、自信がないのか?」
「ありますわっ」
俺にされた質問にマリアが自信満々に答えた。
「わたくしたちなら四魔もやっつけられますわ。ですわよね? プリシラ」
「アッシュさまならどんな敵でも倒せますっ」
「らしいぞ。アッシュ・ランフォード」
もはや断れない雰囲気だ……。
「アッシュ・ランフォード。ギルド長、エトガー・キルステンが命じる。悪魔ベズエルを討伐せよ」
そうして俺たちは四魔の一体、悪魔ベズエルの討伐を命じられた。