57-3
端末の画面に指を触れて勇者を操作し、魔物を倒す。
勇者が剣を振る動作をすると魔物が消滅する。
現実の戦いもこれくらい楽ならいいんだけどな。
――デイリークエスト達成!
という文字が画面右上に表示された。
これで俺の役目は終わりだ。
「あら、この文字、古代文字ではなくてわたくしたちが使っている言語ですわね」
「スセリが端末をいじってこの言語に変えたんだ。古代人も俺たちの祖先だから、同じ言語を使っていても不思議じゃないさ。――スセリ。デイリークエスト終わったぞ」
「むむっ。もう終わったのか」
スセリは依然として階段に手をかざして魔法を使い続けている。
顔をしかめているスセリ。
意外なことに苦戦しているようだ。
「オストヴィント、かなり強力な魔法をかけておる。このワシですら魔法を打ち消すのが困難なのじゃ」
「がんばってください、スセリさま」
「……スセリ」
俺はスセリの肩に手を乗せる。
精神を集中させ、心の中で念じる。
身体の魔力が手を伝い、スセリに送られていくのを感じる。
「アッシュ!? どうしたのじゃ!?」
「俺の魔力も使ってくれ。まあ、『オーレオール』の無い俺自身の魔力は大したことないだろうけど」
「う、うむ……」
こわばった表情のスセリ。
気のせいか、顔を赤らめているような……。
もしかして、恥ずかしがっている……?
――と、そのとき、パリンッとガラスが砕け散るような音がした。
同時に、目をくらます閃光。
「魔法を解除したのじゃ」
一見したところ、先ほどと変わりはない。
だが、スセリが解除したと言ったのだから解除したのだろう。
「やったな、スセリ」
「の、のじゃあ……」
「さっきからどうしたんだ?」
スセリは俺から目をそらし、股のあたりで手をもじもじと擦らせている。
恥じらっている。
「お、おぬし、いきなりワシの肩に触れるでない」
「えっ?」
俺はぽかんと口を開けてしまった。
「恥ずかしいじゃろう……」
スセリ、そんなことで恥ずかしがっていただなんて……。
自分はしょっちゅう俺の身体に触れてからかってくるくせに、触れられるのには慣れていないだなんてウソだろう……。
彼女の乙女の部分を垣間見てしまった。
「そうですわよアッシュ。乙女の身体にむやみに触れてはなりませんわ」
「えっと、すまない」
「まったく、おぬしという者は……」
視線をそらすスセリは頬を赤らめてはにかんでいた。
外見相応の少女らしい、かわいい表情だった。
「責任を取ってもらうのじゃ」
「具体的には?」
「ワシの夫になるのじゃよ」
スセリはそう言って俺の手をつかんできた。
彼女のか細い手から伝わるぬくもりにどきっとする。
「よいじゃろう?」
小首をかしげるスセリ。
くやしくも俺はそんな少女らしいしぐさをする彼女にときめいてしまった。
「はわわわわわわーっ!」
俺とスセリの間にプリシラが割り込んできて、俺たちを引きはがす。
「かっ、階段を上れるようになったのですから、さっそく進みましょうっ」




