57-2
「オストヴィントさまはとてもいじわるな方ですねっ」
憤慨するプリシラ。
マリアも「ですわね」と同意する。
「スセリさまに匹敵するいじわるですわ」
「なぜワシと比較するのじゃ……」
いや、比較するには最適な人間だぞ。スセリよ……。
しかし、困ったな。
この階段以外に先ヘ進む道はない。
どうにかしてこの無限階段を突破しなくては屋敷の奥に行けない。
俺もプリシラもマリアもうんうんうなっている。
スセリは――端末のゲームで遊んでいる。
「スセリさまっ。こんなときにゲームなんてしないでくださいましっ」
「今日のログボを受け取るのを忘れておっての。のじゃじゃじゃじゃっ」
笑ってごまかすスセリだった。
順調にゲーム依存症に侵されてるな……。
ほっぺたをふくらませたマリアがスセリから端末を取り上げる。
「スセリさまもこの階段を上る方法を考えてくださいな」
「ん? そんなの簡単なのじゃ」
「えっ?」
あっさりとスセリがそう言ったのできょとんとする俺たち。
「この手の侵入者を追い払う魔法は熟知しておる。戦時中、ランフォード家を守るために使った経験があるからの。魔法解除の魔法をかければ上れるようになるのじゃ。アッシュ、ワシに『オーレオール』を貸すのじゃ」
俺は魔書『オーレオール』をスセリに渡す。
スセリが階段に手をかざすと、彼女の輪郭が青白く発光をはじめた。
「今から解除の魔法をかけるのじゃ。しばし待つのじゃ。その間にアッシュよ。おぬしは『デイリークエスト』を消化しておくのじゃ」
デイリークエストとはゲーム内の遊びの一つ。
敵を何人倒すとか、仕事を何回こなすとか、設定された条件を達成するとごほうびがもらえるのである。
「デイリークエストをクリアするころには魔法の解除はできておるじゃろう」
「わかったよ……」
俺はマリアから端末を受け取ると、ゲームを起動させた。
スセリがもっぱらご執心のゲーム。確か題名は『テイルズクエスト』だったか。
勇者が魔王を倒しにいく物語だ。
端末を操作して、デイリークエストをこなしていく。
『テイルズクエスト』で遊びだしてからひと月ほど経ったが、このゲーム、本当によくできている――悪い意味で。
ログインボーナスやデイリークエストなどによって毎日ゲームを起動するよう習慣づけるようになっていて、知らず知らずのうちにゲームを日常の中に侵食させてくる。今は機能していないが、他の端末の所持者とゲームの成績を競わせる要素もどうやらあるようだ。
古代人がゲーム依存症に陥ったのも納得だ。
ゲームで遊ぶ俺をいぶかしげな目で見ているマリア。
「アッシュ。それ、楽しいですの?」
「いや、ぜんぜん」
幸いにも俺はこのゲームがちっとも面白くなかった。
スセリには『素質』があったらしく、心配になるほどのめり込んでいるが。




