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「余っているのじゃろう。ならばワシがもらうのじゃ」
「それなら一声かけてくださいまし」
「どうせ誰も食べんのじゃ。他に欲しい者はおるか? おらんな?」
プリシラもマリアも挙手しない。
これではれて最後のクッキーはスセリのもの――にはならなかった。
「アッシュ!? おぬし、なんのつもりじゃ!」
俺が挙手したのだ。
クッキーは別にもういらなかったのだが、このままスセリの身勝手を許すわけにはいかなかった。
「俺もクッキーが食べたい。それだけだ」
「ワシにたてつきおって……」
俺とスセリの視線がぶつかりる。
あわあわとうろたえるプリシラとマリア。
「ケ、ケンカはいけませんっ」
「クッキー程度で争わないでくださいまし!」
「いんや、アッシュにはどうやらしつけが必要なようなのじゃ。どちらが上で、どちらが下か、はっきりさせるのじゃ」
スセリが端末を俺に差し出す。
「じゃじゃーん。ゲームで勝負なのじゃーっ」
そういうわけで、クッキー1枚を賭けて俺とスセリの真剣勝負が火蓋を切って落とされた。
勝負は白と黒の石を使った陣取りゲーム。
縦8マス、横8マスの盤面に互いの石を置いていき、最終的に相手より多くの石を置けた者の勝利という、単純なルールだ。
「それでは先攻が勝つのではなくて?」
「いや、マリア。このゲームにはもう一つルールがあるんだ」
自分の石で相手の石をはさむと、それを自分の石に変えることができる。
ゆえに石をどのマスに置くかが肝要で、うかつに石を並べると相手のものにされてしまうのだ。
この石の奪い合いこそがゲームの醍醐味なのだ。
ゲームは端末によって行われる。さすがにスセリもズルはできまい。正々堂々の勝負だ。
「アッシュの泣きっ面を見るのが楽しみなのじゃ」
「がんばってください、アッシュさまっ」
「アッシュ。戦うからには勝つのですわよ」
「お、おぬしら、ワシの応援もせんか……」
先攻はスセリで黒の石。俺は後攻で白の石。
端末を渡し合いながら、一手ずつ交互に石を置いていく。
「ちょっと、アッシュ! なにしてますの!」
「はわわ……。アッシュさまが押されてます……」
盤面は圧倒的にスセリ――黒の石が多かった。
俺の白の石は、置いたそばからスセリの黒の石に挟まれて黒にされてしまっていた。
「アッシュよ。今ならクッキーを半分ずつで許してあげるのじゃ」
スセリは余裕の表情で、既に勝った気でいる。
だが、この展開になるのは予想どおりだ。
俺とスセリは何度かこのゲームで遊んでいる。だからスセリがどのような戦法を取るのか熟知していた。




