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迷宮には法則性を見いだせなかったので、結局のところ総当りで進むしかなかった。
一見してただの屋敷のような廊下を進み、分岐にさしかかるとチョークで目印をつけてからいずれかの道を選んで進む。しばらく進むと、チョークで目印をつけた分岐に戻ってくる。こちらはハズレだとわかったので、さっき進まなかったほうの分岐へ行く。
そうやって地道に迷宮を歩いていく。
「今ってどのくらい進んでいるのかしら」
「一応、先には進んでいるみたいですけれど……」
この迷宮は一体どれくらい進んだら終わるのだろうか。
白い壁に茶色い天井と廊下。
俺もプリシラもマリアもスセリも、そんな光景ばかりでいい加減気が滅入ってきていた。
「長丁場になるじゃろう。急いでもしかたない。少々休むのじゃ」
俺たちはいったん立ち止まり、腰を下ろして休憩した。
体力的には問題ないが、精神的には少々まいっている。
「このお屋敷、窓がありませんね」
「部屋もありませんわね。ずっと廊下ばかりですわ」
「やれやれ。退屈なのじゃ」
スセリが端末を取り出してゲームで遊びはじめた。
セヴリーヌに言われて俺に端末を預けたのは最初だけで、それからはなんだかんだでスセリが端末を持っていることが多い。
マリアがジト目でスセリを見る。
「スセリさま、最近ゲームばかりですわね。お食事のときも端末をいじりだしますし。下品ですわよ」
「わかっておるがこれがのう、なかなか面白いのじゃ。のじゃじゃじゃ……」
はるかいにしえの時代、あまりの中毒性にゲーム廃人になる人が続出したという。
スセリ、ほどほどにしてくれよ……。
「みなさん、クッキーを食べませんか? 繁華街のおいしいお菓子やさんで買ってきたんです」
プリシラが布の包みを開けると、そこには丸くて厚みのあるクッキーが5枚あった。
俺たちはさっそく一枚ずつそれを手に取ってかじる。
高級感のある、しっとりとした歯触り。
「おいしいですわっ」
「ホントだ。おいしい。紅茶が欲しくなるな」
「もちろん持ってきました。はいっ、アッシュさま」
すかさず水筒を出したプリシラはコップに紅茶を注いで俺に渡した。
こっちは甘いアップルティーだ。
紅茶は冷めていたが、こちらもじゅうぶんおいしかった。
「古代文明には、中に容れても冷めることもぬるくなることもない魔法の瓶があったそうなのじゃ」
「そうなのですか、スセリさま」
「スセリさま、すっかり古代文明にかぶれてしまいましたわね」
おいしいお菓子を食べながら雑談を交えて楽しく過ごしていると、うんざりとした気持ちが自然と晴れてきた。
さて、一人一枚ずつクッキーを食べたのはよかったのだが、クッキーは5枚あり、俺たちは4人。
つまり、1枚余ってしまったのだ。
スセリが最後のクッキーに手を伸ばす――のをマリアが彼女の手首をつかんで阻止する。
「なにをするのじゃ」
「それはわたくしのセリフですわ。どうして当たり前のように自分のものにしようとしますの」




