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56-2

 それから俺とスセリはプリシラとマリアと共に食堂で夕食を食べた。


「……」


 マリアがいぶかしげな目で俺とスセリを見ている。

 それも当然。スセリはまともにフォークも動かせないくらい俺に密着していた。

 しかもうっとりとした表情をしている。


 プリシラもスセリの異様な態度に困惑している。


「ス、スセリさま。どうされたのですか……?」

「どうもしておらんのじゃ」

「ちょっと――いえ、かなりアッシュさまと近いような気が……」

「これがちょうどよい距離なのじゃ。のう、アッシュよ」

「で、できれば少し離れてくれ……」


 俺がそうお願いするとスセリはイスを横にずらして距離をとってくれた。

 これでようやくフォークを動かせる。


 今日の料理は特大ハンバーグ。

 大きな肉のかたまりが皿の上にでん、と載っている。迫力満点だ。

 ナイフでハンバーグを切ると、断面からあつあつの肉汁がこぼれてくる。

 ひと口大に切ったハンバーグを口に入れると、ほろほろと肉がくずれて、口の中に甘辛いソースが絡まる肉の味わいが広がった。


 おいしい。

 庶民的を極めたごちそうだ。


「それでアッシュ。今回の依頼は受けますの?」


 サラダを食べる手を止めてマリアが尋ねてくる。

 今回、俺たちは冒険者ギルドからある依頼を斡旋された。

 それはオストヴィント邸の探索。


 貴族オストヴィントはかつては有名な大貴族であったが、魔王ロッシュローブを崇拝していることが王国に知れたため、爵位を剥奪されてまたたく間に没落したのだった。

 以来、オストヴィント一族は行方知れず。

 残されたのは廃墟と化した屋敷のみ。


 探索するのはその屋敷なのだが、内部はオストヴィントがかけた魔法により迷宮と化していて、足を踏み入れるものを決して屋敷の奥へと進ませないようになっているらしいのだ。

 実際、冒険者ギルドは手練れの冒険者を選び、幾度も屋敷を探索させたが、皆、迷宮をさまようばかりで最奥へとたどり着くことはできなかったという。


「迷宮と化した屋敷の探索! 楽しそうですわっ」

「楽しいかどうかで仕事を選ぶのか……?」

「もちろんですわ。アッシュは反対ですの?」

「どうするか考えているところだ。手練れの冒険者たちでも諦めた仕事が俺たちにこなせるのかどうか……」

「悩む必要なんてありませんことよっ。迷宮の最後になにが隠されているのか、わたくし気になりますわ」


 確かにそれは俺も気になる。

 屋敷を迷宮化してまで隠したいものがあるのは間違いない。好奇心を刺激される。

 それに、報酬も結構な額だから、そういう意味でも魅力的だ。


「プリシラも探索には賛成ですわよね?」

「わたしはアッシュさまに従います」

「スセリさまはどうですの?」

「よいのではないか?」

「多数決により、依頼を受けることに決まりましたわ」


 多数決が成立してたか? 今の。

 結局のところ俺も賛成側になり、オストヴィントの迷宮屋敷の探索を受けることにしたのであった。

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