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フレデリカが持ってきた小箱は、誕生日に両親からもらったという宝石箱だった。
彼女の一番の宝物であった。
ところがある日、フレデリカはカギを失くしてしまった。
それからこの宝石箱を開けることができなくなったのであった。
「この宝石箱のカギ、召喚できませんかねー」
「ためしてみるよ」
目を閉じ、心を研ぎ澄ませて身体の魔力を操る。
そして思い浮かべる。宝石箱のカギを。
カギそのものは見たことがないから、あくまでも想像だ。
思い浮かべているカギの形がやがてはっきりとする。
「来たれ!」
魔法を唱える。
目の前の空間に魔法円が浮かび上がる。
そしてそこから小さなカギが出現し、手のひらの上に落ちた。
「カギですっ」
「すごい……」
金属召喚には成功した。
問題は、果たしてこのカギが宝石箱に合っているかどうかだ。
召喚したカギを、フレデリカが宝石箱のカギ穴に差し込む。
時計回りにひねる。
カチリ。
カギの開く音がした。
フレデリカは宝石箱のフタをあける。
すると、箱からきれいな音色が流れ出した。
オルゴール箱だったんだな。
「ステキな音色ですね、フレデリカさま」
「なんていう曲かは知らないけどー、私も気に入ってるんだよねー」
宝石箱の中を覗き込む。
すると、そこには色とりどりの宝石がぎっしりと詰まっていた。
「あわわわわっ。宝石がこんなに!」
目をまんまるにして慌てだすプリシラ。
フレデリカがぷっと吹き出す。
「これ、ガラスの宝石だしー。子供用のおもちゃだよー」
「そ、そうだったんですね……」
それでもフレデリカにとっては宝物だとわかった。
彼女が目を細め、いとしげにその宝石を手に取っていたから。
「ありがとうございますー、アッシュさんー」
「これくらいどうってことないさ」
「また助けてもらいましたねー。報酬を渡さないとー。アッシュさんてー、好きな色ってありますー?」
「えっと……。青、かな」
フレデリカは宝石箱から透き通った青色の宝石――のおもちゃを取り出し、俺に手渡した。
「私の宝物、ひとつあげますねー」
「ははっ。ありがとう」
「プリシラにも、はい」
「わーっ、きれいですっ。大切にしますねっ」
俺の『金属召喚』でフレデリカを笑顔にできた。
かつてはこの魔法が劣等感をおぼえるものだったなんて、信じられないな。
旅に出て本当によかった。
それにしても、『金属召喚』は謎が多い。
剣や槍などを漠然とした想像で召喚できるのはまだわかる。しかし、見たこともない『フレデリカの宝石箱のカギ』という具体的なものまで召喚できるのはどういう理屈なのだろう。




