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55-5

 フレデリカが持ってきた小箱は、誕生日に両親からもらったという宝石箱だった。

 彼女の一番の宝物であった。

 ところがある日、フレデリカはカギを失くしてしまった。

 それからこの宝石箱を開けることができなくなったのであった。


「この宝石箱のカギ、召喚できませんかねー」

「ためしてみるよ」


 目を閉じ、心を研ぎ澄ませて身体の魔力を操る。

 そして思い浮かべる。宝石箱のカギを。

 カギそのものは見たことがないから、あくまでも想像だ。

 思い浮かべているカギの形がやがてはっきりとする。


「来たれ!」


 魔法を唱える。

 目の前の空間に魔法円が浮かび上がる。

 そしてそこから小さなカギが出現し、手のひらの上に落ちた。


「カギですっ」

「すごい……」


 金属召喚には成功した。

 問題は、果たしてこのカギが宝石箱に合っているかどうかだ。

 召喚したカギを、フレデリカが宝石箱のカギ穴に差し込む。

 時計回りにひねる。


 カチリ。

 カギの開く音がした。

 フレデリカは宝石箱のフタをあける。

 すると、箱からきれいな音色が流れ出した。

 オルゴール箱だったんだな。


「ステキな音色ですね、フレデリカさま」

「なんていう曲かは知らないけどー、私も気に入ってるんだよねー」


 宝石箱の中を覗き込む。

 すると、そこには色とりどりの宝石がぎっしりと詰まっていた。


「あわわわわっ。宝石がこんなに!」


 目をまんまるにして慌てだすプリシラ。

 フレデリカがぷっと吹き出す。


「これ、ガラスの宝石だしー。子供用のおもちゃだよー」

「そ、そうだったんですね……」


 それでもフレデリカにとっては宝物だとわかった。

 彼女が目を細め、いとしげにその宝石を手に取っていたから。


「ありがとうございますー、アッシュさんー」

「これくらいどうってことないさ」

「また助けてもらいましたねー。報酬を渡さないとー。アッシュさんてー、好きな色ってありますー?」

「えっと……。青、かな」


 フレデリカは宝石箱から透き通った青色の宝石――のおもちゃを取り出し、俺に手渡した。


「私の宝物、ひとつあげますねー」

「ははっ。ありがとう」

「プリシラにも、はい」

「わーっ、きれいですっ。大切にしますねっ」


 俺の『金属召喚』でフレデリカを笑顔にできた。

 かつてはこの魔法が劣等感をおぼえるものだったなんて、信じられないな。

 旅に出て本当によかった。


 それにしても、『金属召喚』は謎が多い。

 剣や槍などを漠然とした想像で召喚できるのはまだわかる。しかし、見たこともない『フレデリカの宝石箱のカギ』という具体的なものまで召喚できるのはどういう理屈なのだろう。

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