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錬金術師ノノさんの依頼――もとい、お願いで、俺とプリシラは解熱剤の材料となるキノコを採集しに山へと踏み入った。
結構傾斜のある山道を登りながら足元に目を配り、キノコをさがす。
さっそくキノコ発見。
かさに斑点のついたキノコが木の根元に生えていた。
「プリシラ。このキノコがそうじゃないか?」
「少々お待ちくださいね」
プリシラが図鑑の挿絵とそれを見比べる。
「これは別のキノコですね。かさの模様が違います」
「じゃあ、こっちに生えてるのはどうだ?」
「えっと、ですね……。あっ、これです!」
さっそくキノコを採集し、ノノさんが渡してくれたカバンに入れた。
俺とプリシラは山を登りつつ、次々とキノコを採集していく。
ときどきハズレもあったが、ノノさんが所望する解熱剤に必要なキノコはわりと簡単に見つかり、カバンにどんどんキノコが入っていった。
採集は順調だ。
「……なあ、スセリも手伝ってくれよ」
順調にキノコはみつかっているものの、スセリはずっと魔書『オーレオール』の中に入ったまま出てこない。キノコ採集をしているのはずっと俺とプリシラの二人で、彼女が手伝う気配は微塵もなかった。
――ワシはこういう体力を使う仕事は向いてないのじゃ。
「俺だって屋敷暮らしの元貴族だぞ。力仕事なんてしたことないし」
――なら、なおさら身体を鍛えんとな。のーじゃじゃじゃじゃっ。
「わたしはメイドの威信にかけてキノコを見つけてみせますっ」
やる気のないスセリとは対照的にプリシラは積極的にキノコ採集をしてくれている。
さすが真面目で働き者のプリシラ。スセリも見習ってもらいたい。
しかし、メイドの威信とは一体……。
「それはともかく……、ちょっと休憩しておやつを食べませんか?」
唐突にプリシラがそんな提案してきた。
――おやつじゃと!?
スセリが即座に反応する。
「ノノさまからいただいたクッキーを食べて休みましょう」
――食べる! 食べるのじゃ!
『オーレオール』からスセリが飛び出てくる。
しかしプリシラはにこにこと笑みを浮かべているだけでクッキーを出そうとはしない。
訝るスセリに向かって、プリシラは両腕を交差させてバツ印をつくった。
「なーんて、ウソですっ」
「のじゃ!?」
「出てきたからには働いてくださいね、スセリさまっ」
「はっ、謀られた!」
すごい、プリシラ……。スセリをものの見事に誘いだした。
スセリはまさか自分が騙されるとは思いもよらなかったらしく、あっけにとられていた。
肩を落とし、大きくため息をつくスセリ。
そこらへんに生えていたキノコをむしってよこしてくる。
「しかたないのう……。ほれ、キノコじゃぞ」
「それ、ぜんぜん違うヤツだろ……」
やる気はスプーン小さじ一杯ほどもないようすだった。




