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54-5

 電撃を浴びた獅子型の機械人形が横倒しになる。

 内部の機械が壊れたのだろう。首や足の関節から火花が散っている。

 しばらくすると、機械人形は動かなくなった。


「覚悟!」


 キルステンさんが剣を両手で握り、手下を失ったナイトホークに躍りかかる。

 ナイトホークは魔剣アイオーンで攻撃を受け止める。

 両脚に力を込めて競り合う二人。


「妻と娘のかたきをここで討つ」

「くだらん」

「貴様にとってはな!」


 競り合いに勝ったのはキルステンさんだった。

 ナイトホークが真後ろに飛んで逃げる。

 キルステンさんはすかさず再度の接近を試みた。


「待つのじゃ、キルステン!」


 スセリが声を上げる。

 しかし、遅かった。

 ナイトホークがアイオーンを掲げると、黒い波紋が広がってキルステンさんを吹き飛ばした。


「アイオーンの魔力を消費したくはなかったが、仕方がない」


 アイオーンの刃が黒いもやに包まれていく。

 邪悪な魔力を感じる。

 まずい。アイオーンの力を使われたら、たとえ『稀代の魔術師』のスセリであっても防げるかどうかわからない。スセリの顔に焦りが見えるのがその証拠だった。


 逃げるか。

 間に合うのか?

 なら、イチかバチか、攻撃するか。


 そのとき、夜の暗闇から白いローブの人物が現れ、ナイトホークに近づいた。


「ミスティアか。どうした」

「『あの方』のご命令だ。すぐに撤退しろ」

「なに……」

「撤退だ。急げ」


 ナイトホークが掲げていたアイオーンを下ろす。

 邪悪な魔力が薄れていく。

 そして俺たちに背を向け、もう一人の白いローブの人物――ミスティアと共に夜の暗闇に溶けて消えた。


 ……命拾いした。

 ナイトホークたちの気配が消えると、俺は安堵の息をついた。

 キルステンさんが俺たちのほうを向く。


「アッシュ・ランフォード。なぜここに来た。スセリ・ランフォードにそそのかされたか」

「ワシたちが来なかったらおぬし、今ごろ死んでおったのじゃ。なんじゃその言い草は」

「それは結果論だ」


 剣を腰の鞘にしまうキルステンさん。

 倒れていた王国騎士団の人たちがよろよろと起き上がりだす。


「キルステンさん。ロッシュローブ教団の他の信者たちは……」

「そんなものはいない。ここは本拠地ではなかった。あの男は私たちが後を追ってくるのを見越してここへ誘い込み、機械人形を操ってけしかけてきた。まんまと策にはめられたのだ」


 結局、ロッシュローブ教団をせん滅することはできなかった。

 やはり一筋縄ではいかなかった。



 翌日。冒険者ギルドにて。

 俺たちが商人護衛の依頼を受けてギルドから出ようとしたとき、キルステンさんに呼び止められた。


「ああは言ったが、昨日は助かった。礼を言う」

「いえ、キルステンさんが無事でなによりです」

「だが、もう無謀なまねはするな」


 それだけ言うと、彼はくるりと反転して立ち去った。

 エトガー・キルステン。

 不愛想だが、悪い人ではないのは確かだ。

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