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大皿に盛られたパスタを俺とプリシラ、マリア、スセリの四人で分け合って食べている。
濃厚なトマトソースのパスタ。
高級というよりは、満腹で満足感を得られる大衆料理といった感じだ。
とはいえもちろん、味は文句なしにおいしい。
俺たちはおしゃべりをしながら、次々とパスタを小皿に取っていった。
「おいしいですー」
「寝る前にこんなに食べたら太ってしまいますわ。ふふっ」
プリシラもマリアもニコニコ笑顔。
「うむ。おいしいのじゃ」
スセリもしきりにうなずいている。
プリシラがフォークを皿の上に置き、こう言いだした。
「ロッシュローブ教団の件が片付きましたら、わたしたちってケルタスに帰るのでしょうか」
「たしかに、やることはすべてやりましたわね」
「なにを言っておるのじゃ。プリシラもマリアも」
スセリが首を横に振る。
「ケルタスはおぬしらの故郷ではあるまい。冒険者としての実績を積むのなら、断然この王都で働くほうがよかろう」
スセリの言うとおりだった。
ケルタスにはそこそこ長い間滞在していたから、あの街が帰るべき場所だと当たり前に思ってしまっていた。
実際は、ケルタスは俺たちにとっては通過点。
やがて過ぎ去る場所なのだ。
「でも、『夏のクジラ亭』が恋しいです」
「ワシらとクラリッサたちはしょせん、客と店の関係にすぎん」
「それはちょっと冷たくなくて? スセリさま」
非難するマリア。
「では、ケルタス居続けて、おぬしらはどうするつもりなのじゃ。一生そこで暮らすのか? 将来の展望がなにも無いのなら、いっそのこと実家に帰ったほうがよいのじゃ」
そう言われてマリアは口ごもってしまった。
スセリはフォークにぐるぐる巻いたパスタを口に運ぶ。
「王都グレイスは王国の中枢。あらゆるものが集まり、あらゆることができ、あらゆる物事を知ることがでるのじゃ」
あらゆる可能性を見つけられる場所。
それが王都。
スセリがフォークの先をプリシラに向ける。
「プリシラ。おぬしは奴隷の身からアッシュの父に買われてメイドになったのじゃ。自らの意思とは無関係に今のおぬしとなった。そろそろ自分で歩むべき道を決めるべきなのじゃ」
「わっ、わたしは一生、アッシュさまについていきますっ。アッシュさまのメイドですっ」
そう言ってくれると思った。
その気持ちはうれしい。
だが、それではプリシラは本当のしあわせを見つけられない。
できることなら、彼女には――。
「アッシュさま!」
プリシラが俺にすがりついてくる。
涙で目を潤ませている。
雨に濡れた子犬みたいだ……。
「アッシュさま。わたしを見捨てないでください……」
見透かされたか。
「アッシュさまのおそばにいるのが、わたしのしあわせなのです」




