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キルステンさんは本棚から一冊の本を取り出して俺に手渡した。
表紙に題名らしきものが書かれているが、この国の文字ではないためなんと書いてあるのかはわからない。
中身を開いてみても、やはり異国の文字で記されている。
どうしていきなりこんなものを俺に……?
「重要なのは中身ではない。外側だ」
「外側……?」
「その本が『オーレオール』の身代わりなのじゃ」
キルステンさんの代わりにスセリが答えた。
「アッシュが持っておるその本を『オーレオール』と偽って、ロッシュローブ教団の信者に渡すのじゃ。そうじゃろう? エトガー・キルステンよ」
「そうだ。それも、ただ渡すのではない。あらかじめ魔力を込めておき、その魔力の痕跡をたどって信者を追うのだ。『オーレオール』を手に入れた信者は間違いなく、親玉のいる本拠地に帰るだろうからな」
スセリが俺の手から本を取る。
そして目を閉じて魔法を詠唱し、その本に魔力を込めた。
魔力が可視化された青白い光が本を包み、やがて消えた。
「これで『偽オーレオール』の完成なのじゃ」
約束どおり、俺たちはロッシュローブ教団が指定した場所へ行き、教団の信者に『偽オーレオール』を渡す。そして『偽オーレオール』の魔力の痕跡をたどって教団の本拠地を見つけだし、王国騎士団と結託して乗り込み、教団を一網打尽にする。
――それがロッシュローブ教団せん滅の筋書きだった。
「ワシらはどさくさにまぎれて魔剣アイオーンを手に入れるのじゃ。よいな?」
スセリが耳打ちする。
「聞こえているぞ」
「のじゃじゃじゃっ」
キルステンさんの鋭い眼でにらまれても、スセリは全く動じていなかった。
「お前たちは教団の信者に『偽オーレオール』を渡せ。それだけでいい。余計なまねはするな。わかったか」
「わかっておる、わかっておるのじゃ」
ぜったいにわかってないな……。
それからしばらく経ち、約束の時刻より少し前。
俺とスセリ、プリシラとマリアの四人で教団が指定した場所にいた。
王都から離れた場所にある、ひとけのない丘陵。
そこにぽつんと立っているボロ小屋の中。
「ここにロッシュローブ教団が来ますのね、アッシュ」
「『偽オーレオール』を受け取った後、俺たちを抹殺するかもしれない。気を抜くなよ」
「まあ、十中八九、そうしてくるじゃろうな」
「メイドの威信にかけてアッシュさまをお守りしますっ」
万が一にも気取られてはいけないよう、キルステンさんと王国騎士団は離れた場所で待機している。小屋の中でなにが起こっているのかあちらからではわからないため、信者に襲われたら自分たちで対処しなければならない。




