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6-1

 女の子の病気を治した俺とプリシラ、スセリは再びノノさんの家に戻ってきた。

 そしてあらためてゆっくりと紅茶とお菓子を堪能する。


「この紅茶、いつもよりおいしいわぁ」


 ノノさんが機嫌よくそう言う。


「プリシラちゃん、お茶を淹れるのが上手なのねー」

「メイドですからっ」


 ドヤッ、とプリシラは決め顔を作った。

 プリシラはメイドであることを誇りに思っているのだ。


「ワシはもうちょっと渋めが好みじゃがの」

「スセリさまは渋めが好み――と。おぼえましたっ」

「うむ。よいぞよいぞ」


 他人の家なのにスセリはソファにふんぞり返って菓子を食べていた。

 偉そうな態度だな……。

 いや、実際偉いんだけど、少女の身体ではやはり威厳が足りない。


「スセリ。敬ってもらいたいならもっと大人の姿になればよかったんじゃないか?」

「この年齢の頃が最も魔力が高かったのじゃ。ワシだって好き好んで幼い少女の格好をしているわけではないのじゃ」

「10代が最盛期だったんですかぁ。さすが『稀代の魔術師』ですねー」


 ノノさんの話によると、魔術師としての最盛期は20代から30代の間が普通だという。

 そうだとするとスセリはかなりの早熟だったんだな。


「まあ、最盛期を過ぎても凡百の魔術師とは比べ物にならない魔力を誇っておったがな。なにせ魔書『オーレオール』を創ったのが30代の頃じゃったからな」

「すごいですっ」

「ワシの機嫌を損ねさせた国は一夜にして瓦礫と化すこともできたのじゃぞ」

「それじゃみんな、お前を怒らせまいとビクビクしてたんだろうな」

「……まあ、な」


 スセリが声の調子を落とす。

 寂しげで自嘲気味な表情。


 しまった。うかつなことを言ってしまった。

 今の短いやりとりで、俺は彼女が隠し抱いていた孤独を察した。

 非凡ゆえの孤独。

 プリシラとノノさんも俺と同じく、「あっ」と察した表情をしていた。


 しん、と静寂が訪れる。


「そうだわー。アッシュくんたちに依頼があるのよー」


 短い沈黙をノノさんが破った。


「依頼ですか?」

「のじゃ?」

「そう。アッシュくんたちは冒険者なんでしょー?」

「そうですけど、依頼なら冒険者ギルドを介さないといけない決まりになってるんです」

「ならー、個人的なお願いでいいかしらー。お駄賃はもちろん用意してるわ」


 壁際のテーブルを指さすノノさん。

 そこには銀貨やら銅貨やらが雑に散らばっていた。


「もちろんいいですよ。なあ、プリシラ、スセリ」

「はいっ。なんでもお命じくださいっ」

「ワシはこき使う側だから構わんのじゃ」

「よかったわー」


 ノノさんはソファを立つと、壁に掛けてあったカバンを俺に渡した。

 中身はからっぽだ。

 続いてノノさんは部屋の奥の本棚の前に行き、一冊の分厚い本を取ってきた。

 そして本を開いて俺に見せる。

 図鑑だな、これは。

 開かれたページにはキノコの挿絵が描かれている。


「このキノコをカバンいっぱいに採ってきて欲しいのー」

「錬金術に使うんですか?」

「そうよー。解熱剤を錬成するのに必要な素材ね。ちょうど切らしていたのー」


 ノノさんはしおりを挟んで閉じた図鑑をプリシラに渡した。


「はわわわっ」


 結構重いらしく、プリシラは姿勢を崩してふらついた。

 なんとか姿勢を保ったプリシラは胸の前で図鑑を抱きしめた。


「しっかりその図鑑の絵と同じキノコを採ってきてねー。似たようなキノコがいっぱいあるからー」

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