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「今回の依頼の報酬はー、私の口づけでどうですー?」
「いらない」
俺は即座に断った。
フレデリカが頬をふくらませてふてくされる。
「女の子の口づけを断るなんてー、アッシュさんひどいですねー。逆に失礼ですよー」
「そういうのは大事なときがきたときまでとっておけ」
ティーカップに口をつけて少し傾け、紅茶を飲む。
渋い味わいが口の中に広がる。
「なら、どんな報酬だと満足するんですかー。私ー、お金なら持ってないですよー。ママからのおこづかい、ほんのちょびっとしかもらえませんしー」
持ってないのに依頼したのか……。
「報酬はいらない。今日はフレデリカの友達として遊んだだけだからな」
「友達……」
「俺たち、友達だろ?」
「は、はい……」
頬を染めて視線をそらすフレデリカ。
「またいっしょに釣りにいきましょうねっ。フレデリカさまっ」
「……うん」
フレデリカはうれしそうにうなずいた。
それから三人でひとしきりおしゃべりをしてから、俺たちは代金を支払ってカフェを出た。
宿『ブーゲンビリア』に帰ってくる。
フレデリカは母親と受付を交代し、俺とプリシラは各々の部屋に戻った。
「おかえり、なのじゃ」
部屋のベッドにはスセリが寝そべっていた。
古代人の遺物――薄っぺらい長方形の物体『端末』でゲームをして遊んでいる。
端末の画面を肩越しに覗く。
勇者が剣を持って竜に立ち向かっていて、勇ましい音楽が流れている。
「ここ、俺の部屋なんだが」
「知っておるのじゃ」
スセリは俺には目もくれず、ゲームに熱中している。
どうやってカギを開けたのか。
どうしてわざわざ俺の部屋で遊んでいるのか。
今更質問する気にもならなかった俺は、ため息をついた。
「なんじゃ、ため息などつきおって。プリシラの真似をして『おかえりなさいませ』とでも言ってほしかったのか?」
「頼めばしてくれるのか?」
「するわけないのじゃ。のーじゃじゃじゃじゃっ」
いつもの変な高笑いをあげた。
画面の中の勇者が竜の炎を浴びて丸焦げになった。
「あー、やられてしまったのじゃ」
端末の機能を停止させ、サイドテーブルに置く。
「釣りは楽しかったか?」
「湖はきれいだったし、ボートを漕ぐのも楽しかったし、大きな魚も釣れた」
「それはよかったのじゃ。ワシはおぬしらがのんきに遊んでいる間にロッシュローブ教団の居所について調べておったのじゃが」
「ついにわかったのか」
「うむ。奴らの居場所をつきとめたのじゃ」
ベッドの上に地図を広げるスセリ。
そして郊外のある一点を指さした。




