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「プリシラもいっしょでいいか?」
「かまいませんよー」
マリアはスセリとなにかやることがあるらしい。
そういうわけで俺とプリシラ、フレデリカの三人で魚釣りに行くことになった。
三人とも釣り竿を担ぎ、宿屋『ブーゲンビリア』を発った。
王都の門を抜けて外に出る。
見渡すかぎりに広がるなだらかな平野。
整備された街道を歩く人々は門を通って王都の中に、あるいは外に出ていく。
冒険者の護衛を連れた商人とすれ違う。
続いて、野菜を山ほど積んだ荷馬車がのんびりとした足取りで門から出ていく。
王都の周辺は小さな村が点在し、村人は作物を育てて暮らしている。
そして王国の兵士が定期的に巡回しているため、魔物はめったに出てこない。
この街道は他の都市との物流の要。
守るべき価値があるわけだ。
フレデリカによると、湖は街道から外れた森の中にあるという。
彼女の言うとおり、街道に沿って少し歩くと、右手にうっそうと生い茂る森があり、そこに続く細い道が引かれていた。
こちらの道には馬車のわだちがない。誰も通らない道なのだろう。
「森に魔物は住んでいないのですか? フレデリカさま」
「んーん。いないよー、プリシラ。森にも木こりや猟師が住んでるし、衛兵さんもときどき見回りにくるからねー」
とはいえ、一応注意はしないとな。
魔物でなくても、クマに襲われるかもしれないからな。
森に入る。
陽光を少しでも浴びようと木々が争うように枝葉を広げているため、森の中は太陽の光が届かず薄暗かった。
それに、空気もしめっている。
「フレデリカはいつもここに来るのか?」
「そうですよー、アッシュさん。私-、魚釣り好きなんでー」
魔物が出ないとフレデリカは言ってるが、一人で森を歩くのは危険では……。
「アッシュさまっ」
「魔物か!?」
プリシラが木の上を指さす。
とっさにそちらに目を向けると――太い枝の上にリスがいた。
「リスですっ」
「……かわいいな」
プリシラがクッキーのかけらをのせた手をリスのほうにかざす。
すると、リスは枝からプリシラの肩に飛び降り、腕を伝って手のひらの上に乗ってクッキーを食べだした。
プリシラの目がきらきらと輝く。
「リスさん。お友だちに――あっ」
リスは口の中にクッキーを詰め込むと、すぐにプリシラの手から降りて草むらの中に入ってしまった。
リスとふれあうのを期待していたプリシラは残念そうに肩を落とした。
「愛想の無いリスですねー」
フレデリカが言う。
お前がそれを言うか……。
気を取り直して再び歩を進める。
フレデリカは子供のころからこの森で遊んでいるという。
小さい頃は友達と一緒にこの森を探検していたが、歳を重ねるにつれ、誘っても誰もいっしょに遊んでくれなくなったのだと言った。




