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51-7

「ルミエール家! よく存じていますよ。優秀な魔術師を何人も輩出していますのよね」

「お褒めいただき、光栄の至りです」

「さっきも言いましたけど、そんなかしこまらないでください。確かにわたくしは王女ですが、しょせんは七番目の娘ですから」


 王女は苦笑する。

 ラピス王女は国王陛下の七番目の娘。

 そして母は四人いる妾のうちの一人で、王族としての格は高いとは言えない――と王女は言った。

 それでも王族は王族。

 俺たちからすれば雲の上の人だ。


「で、王女よ。おぬし、ワシらに用があって来たのじゃろう? 要件を聞いてやるのじゃ」


 なんかスセリのほうがえらそうだな……。


「実はわたくし、どうしてもスセリさまに会いたくてここに来たのです」


 スセリに?


「ワシか?」

「えっ、あなたがスセリさまなのですか!?」


 ラピス王女が驚いた。

 驚くのも無理はない。

 初対面でこの少女が『稀代の魔術師』だとわかる人間がいるだろうか。


 目の前のえらそうな態度をとっている少女がスセリだとわかると、ラピス王女はいきなりスセリの両手をつかんで、真剣な顔をしてこうお願いしてきた。


「わたくし、不老になりたいのです」

「無理なのじゃ」


 王女の願いをスセリは一蹴した。

 それでも王女は諦めず、スセリの手を握ったまま離そうとしない。

 スセリは露骨にうっとうしげな面持ちをしている。


「スセリさまは先々代の王の時代から生きている、不老の魔術師だと聞いています」


 正確には違うが、不老の人間だというのはとりあえず間違いない。


「わたくしも年老いことなく、永遠に若い姿でいたいのです」

「老いて朽ちるのは万物の定め。おとなしく受け入れるのじゃ」


 その万物の定めとやらに真っ向から歯向かっている者が言っても説得力は皆無だった。


「少々お待ちください!」


 ラピス王女は応接室を飛び出す。

 それからしばらくして、車椅子に乗った気品のある老婆を連れて戻ってきた。


「わたくしのおばあさまです!」

「先代の王妃さま!?」


 なんかすごい人を連れてきた!?

 先代王妃がラピス王女を見上げる。


「なんですかキャロライナ。私は編み物をしておったのですよ」

「わたくしはラピスです、おばあさま。キャロライナはわたくしの姉です」

「おお、そうだったねえ、キャロライナ」

「このように、おばあさまは日に日に物忘れがひどくなっていくのです。腰もすっかり曲がってしまって……」


 使用人が現れ、先代王妃の車椅子を押して俺たちの前から去っていく。

 祖母がいなくなってからラピス王女は悲しそうにこう言った。


「わたくし、年老いるのが怖いのです。おばあさまのように、愛する人たちをいずれ忘れてしまうと思うと……」

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