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「先代や先々代の王さまもスセリさまを知っていますの?」
「よく知っておるじゃろう。内密な相談をワシとしていたからの」
「内密……」
「不老の魔法についてなのじゃ」
先代と先々代の王は、スセリに不老の魔法をつくるよう命じていたという。
その見返りとして、スセリはランフォードという苗字を与えられ、貴族となった。
ランフォード家の莫大な財産も王から与えれたものだった。
不老の身を渇望した王たちは、スセリへの投資を惜しまなかった。
そしてスセリは与えられた地位と財産を利用し、魔法の研究に明け暮れたのだった。
「王さまたちの援助のおかげで不老の魔法が完成したというわけですわね」
「いんや、不老の魔法は王に命じられる前からできておったのじゃ」
「ど、どういうことですの!?」
スセリが無断で俺のビスケットを奪ってかじりながら答える。
「黙っておれば、いくらでも援助をしてもらえるじゃろう?」
それに、と彼女は続ける。
「不老の身はワシ一人でじゅうぶんなのじゃ」
不敵に笑った。
……本当にこいつは恐れを知らない人間だ。
「スセリさまは本当にあくどい方ですわね……」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
誉め言葉と受け取ったスセリはごきげんに笑った。
俺がこの少女の血を受け継いでいるだなんて到底信じられない……。
そのとき、応接室の扉が開いた。
謁見番がまわってきた――のではないとすぐにわかった。
扉を開けて入ってきたのは、美しいドレスをまとった少女だったから。
王族。
「ごきげんよう」
にこりと微笑むドレスの少女。
「お初にお目にかかります。わたくし、グレイス王家第七王女のラピスと申します。以後、お見知りおきを」
「王女さま!?」
プリシラが声を上げた。
俺もマリアも彼女と同様、目をむいていた。
まさか、王女さまがやってくるなんて思いもしなかったから。
「あら、お茶のじゃまをしてしまったかしら」
「めっそうもございません!」
首をぶんぶん横に振るプリシラ。
それが面白かったのか、ラピス王女は手で口元を隠してくすくすと笑う。
「そんなに緊張されなくてもいいんですよ」
「ひゃいっ!」
プリシラは裏返った声で返事をした。
ラピス王女はプリシラに近寄り、頭に生えた獣耳にそっと手を触れる。
「かわいらしい耳ですね」
なんの悪意も無くそう言う。
この人は、半獣が世間でどういう扱いをされているのか知っているのだろうか。
次に彼女は俺のほうを向く。
「あなたがランフォード家のアッシュさんですね。隣にいらっしゃるのは――」
「ルミエール家のマリアと申します。ラピス王女さま」




