51-4
プリシラのやわらかいひざを枕にして目を閉じる。
あたたかい日差し。
気持ちが落ち着く。
意識と共に喧騒がだんだんと遠くなる。
……。
……。
……。
……ハッ!
遠退いていた意識を取り戻した俺は彼女のひざから飛び起きた。
プリシラはくすくすと笑っている。
「もっと寝ていてもいいですよ」
「はは……」
恥ずかしくなった俺は笑ってごまかした。
「プリシラ。次はどこへ行きたい?」
「そうですね……」
プリシラはあごに手を添えて考え込む。
熟考の後、彼女はこう答えた。
「図書館に行ってみませんか?」
図書館。
意外だな。
プリシラって本が好きだったのか。
「わたし、あまり本を読んだことがないので、興味があるんです。アッシュさまはよく本を読まれますよね」
「娯楽の本だけどな」
公園での休憩を終えた俺とプリシラは図書館へと向かった。
さすが王都と言うべきか。図書館はとても大きな建物だった。
中も広く。天井がとにかく高かった。
書架がずらりと並んでいる。
「本がいっぱいありますね」
プリシラがささやく。
図書館は私語厳禁のため、喧騒に満ちた外とうって変わってしんと静まり返っている。
俺とプリシラは書架の間を歩く。
収められている本はどれも学術的なものばかりで、そのへんの本を適当に取って開いてみてもさっぱり理解できなかった。プリシラも俺と同じらしかった。
だが、この雰囲気は好きだ。
とても静かで落ち着く。
「アッシュさま。この本は絵がたくさん描かれてますよ」
プリシラが持ってきたのは図鑑だった。
動物の図鑑だ。
俺たちはテーブルに並んで着き、二人寄り添って図鑑を読んだ。
「これはオオカミだな」
「かわいいですね」
文章が書かれているページは読み飛ばし、動物の絵が載っているところだけを二人で読んだ。
あまりしゃべっては迷惑になるから、二人とも黙々と。
代わりに、互いに目配せしあって意思疎通した。
とても楽しい時間だった。
図書館を出ると、太陽がだいぶ傾いていた。
そろそろ帰らなくては。
「アッシュさま。今日はありがとうございましたっ」
「俺のほうこそ、ありがとう、プリシラ」
そうしてまた手をつなぎ、帰路についた。
夕焼けに染まる街並みは寂寥を感じさせた。
「ませー」
宿『ブーゲンビリア』に帰ってくるや、宿屋の娘フレデリカがやる気のない声で迎えてくれた。
退屈そうな顔をしてカウンターに頬杖をついている。
「うらやましいですねー。デートだなんて」
「フレデリカさまは宿の手伝いをしてらっしゃったのですか?」
「そうですよー。あー、だるい……」
「帰ってきましたわね」
そこにマリアが現れる。
プリシラをびしっと指さしてこう宣言した。
「次は負けませんわよっ」
「のぞむところですっ」
それから二人は笑いあった。




