51-2
いくつものテーブルが並べられた広い食堂には大勢の宿泊客がいて食事をしていた。
宿泊客たちの歓談で食堂は賑わっている。
さすが大きい宿だけあって、食事の時間は混雑するんだな。
幸運にも四人座れる席があったため、俺たちはそこに陣取った。
「ご注文はなににします?」
エプロンを身に着けた店員が注文を聞きにやってきた。
俺はシチューを、プリシラはポトフを、マリアは魚の蒸し焼き、そしてスセリはステーキを頼んだ。
「それと酒じゃな。ぶどう酒を頼むのじゃ」
「すみません。未成年の方にお酒は提供できないのです」
「ワシはこう見えて100歳を超えておるのじゃ。100から先は数えておらん」
「は、はぁ……」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
店員が困っていたので、俺が「全員ぶどうのジュースでお願いします」と助けた。
スセリ、間違いなくこの反応を楽しみに店員をからかったろ……。
「さて、『ブーゲンビリア』はワシらの舌を満足させられるかの」
「期待していいんじゃないか」
食堂はさまざまな料理のにおいで満ちている。
否応にも食欲をそそる、いいにおいだ。
宿泊客たちも皆、おいしそうに料理を食べている。
でも、さすがにヴィットリオさんの料理にはかなうまい。
あの人の料理は高級料理店でも通用するほどだったからな。
「おまたせしました」
先ほどの店員が料理を運んできた。
「おいしそうですっ」
プリシラが目を輝かせてポトフの器を覗き込んだ。
「さっそく食べるのじゃ」
スセリはステーキにフォークを突き立て、豪快にかぶりついた。
プリシラとマリアはちゃんと神に感謝の祈りを捧げてから食べはじめたというのに……。
俺もプリシラたちにならって祈りを捧げてからスプーンを手に取った。
シチューをすくい、口に入れる。
途端、ホワイトソースの甘いかおりが口の中に広がる。
ジャガイモもニンジンもやわらかい。
……おいしい。
「驚きましたわ」
「これは……油断しておったのじゃ」
「ヴィットリオさまの料理に負けない味ですっ」
まさかヴィットリオさんの料理に匹敵するものが出てくるとは思いもよらなかった。
王侯貴族に振舞われる料理だと言っても過言ではない。
「ウチの料理、おいしいですかー」
「フレデリカさま」
宿屋の娘、フレデリカが俺たちの前にやってきた。
「フレデリカ、仕事はいいのか?」
「受付は今、別の人がやってますのでー。で、料理はおいしいですかー?」
「とても美味ですわ」
「とってもとってもおしいですっ」
「ならよかったですー」
フレデリカがニヤリと笑った。
「ウチの食堂、王都ではちょっとだけ有名なんですよー」
料理目当てに宿泊する客もいるのだとフレデリカは言った。
その後、フレデリカの母親がやってきて、シーツを干した件についてあらためてお礼をしてくれた。
「娘が迷惑をおかけしたおわびとして、今日は好きなだけ食事をしていってください。もちろん、お代はいりませんので」
「そんな、ぜんぜん迷惑ではありませんでしたよ」
「ほらねー、ママ。迷惑じゃないってアッシュさんも言ってるじゃん」
「あなたって娘は……」
断るのも失礼だったので、この厚意は報酬として受け取らせてもらうことにした。
「よし、タダならステーキをもう一枚食べるのじゃ」
「この子、くいしんぼうなんですねー」
「『子』じゃないぞ。ワシは100歳を超えておるのじゃ」
「意味わかんないんですけどー」
「のじゃじゃじゃっ」
スセリは一人で二人前のステーキをぺろりと平らげたのだった。
その小さな身体のどこにそれだけの料理が入ったのだろう……。




