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51-1

 冒険者ギルドで用事を済ませた俺たちはそれから、日が暮れるまで王都を観光した。

 王都グレイスは想像をはるかに超える大きな都市だった。

 あのケルタスがちっぽけに感じるくらい。


 外敵を防ぐために巨大な防壁が輪をなしていて、その内側に都市がある。

 そして、その中心に王城がそびえている。

 都市はケルタスと同じくいくつかの地区に分けられていて、住宅街や港、市場、職人街など、それぞれ特化した機能が割り振られている。中でも歓楽街はひときわ賑わっていて、溢れかえる市民や観光客で夜でも喧騒が絶えなない。


「わたくし、王都の劇場で劇を観るのが夢でしたの」

「いいですねっ。今度、みなさんで劇を観ましょうっ」

「ワシは闘技場へ行きたいのじゃ。あるいはカジノじゃな」


 みんなすっかりはしゃいでいた。

 ……かく言う俺もそうなのだが。


「アッシュさまはどこに行ってみたいのですか?」

「俺か。俺は大学だな」

「だいがく……?」


 思いもよらぬ答えだったのだろう。ぽかんとするプリシラ。


「学校だよ。この国の最高学府であるグレイス大学を見学してみたいな」

「さ、さすがアッシュさま……。勉学についてしっかりと考えていらっしゃるのですね」


 ランフォード家に住んでいたころの俺の家庭教師はグレイス大学の卒業生で、大学がどんなところかときどき話してくれた。

 グレイス大学は、世界中の秀才たちが集まる知識の中枢。

 彼らはその知識を使い、国の発展に大きく貢献しているという。


「グレイス大学か。悪くないのじゃ。ランフォード家やルミエール家の人間なら大学も快く見学を許してくれるのじゃ」

「わ、わたしは半獣ですから、門前払いですね……」

「いんや。多くはないが、グレイス大学には半獣も在籍しておるのじゃ」

「そうなのですか!? スセリさま!」


 知識を渇望する者ならば出自や年齢、貴賤を問わない。

 それがグレイス大学の主義なのだとスセリは言った。


「勉強……。わたしも勉強してみたいです……」


 プリシラが小さくつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。



 そして宿『ブーゲンビリア』へと帰ってくる。


「ませー」


 受付に立っていた少女フレデリカがやる気のない声で迎えてくれた。

 カウンターに頬杖をついている……。


「あいかわらずだな、フレデリカは」

「大しておこづかいもらえないのに、やる気なんて出ませんよー」


 預けていた部屋のカギをフレデリカからもらう。


「ああ、そうそう。まもなく食堂が開く時間なんでー、夕食をとりたいなら食堂に来るといいですよー。繁華街のお店はどこもぼったくりですからー、外で食べるのはおすすめしませーん」


 食堂か。

 『夏のクジラ亭』のコック、ヴィットリオさんの不愛想な顔が思い浮かぶ。

 あの不愛想な彼が作ってくれる驚くほどのごちそうが懐かしい。


「フレデリカ。お食事はおいしいんですの?」

「普通でーす」


 そこは「おいしいです」と言うべきでは……。

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