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50-7

 スセリは勝ち誇った笑みを浮かべてキルステンさんを挑発している。

 キルステンさんは無表情。


「アッシュ・ランフォード。お前が魔書『オーレオール』を所持している限り、ロッシュローブ教団はお前の命を狙ってくるのは間違いない。ヘビのように執拗に」


 彼は俺に手を差し伸べる。

 握手――ではない。


「『オーレオール』はギルドで預かろう。ギルドで厳重に保管すれば教団も手出しできまい。そしてお前の身も安全になる」


 確かにこの人の言うとおりだ。

 この『オーレオール』は個人で所有するには過ぎた代物。

 冒険者ギルドのような大きな組織に預けるべきなのは道理だ。

 ……だが。


「それには及ばんのじゃ」


 スセリがそれを拒否した。

 キルステンさんの眉がぴくりと動く。


「『オーレオール』はこやつに扱わせると、著者であるワシが決めたのじゃ」

「それで、どうするつもりだ。アッシュ・ランフォードを新たな魔王にでも仕立て上げるつもりか。ランフォード家の始祖よ」

「魔王! それも面白そうじゃのう」


 スセリは「のじゃじゃじゃじゃっ」と大笑いした。


「この魔書があろうがなかろうが、教団はこやつに手下を仕向けてくるじゃろう。もはやワシらはそういう因縁になってしまったのじゃ。ゆえに、最強の武器である『オーレオール』をギルドに渡すわけにはいかんのじゃ」


 黙りこくるキルステンさん。

 ずっと無表情を保っているため、この人がなにを考えているのかわからない。

 怒っているのか、呆れているのか、あるいはなんとも思っていないのか。

 冷たい眼からは依然として冷徹さを感じるが。


「ならばそうするといい」


 しばしの沈黙の後、彼はそう言った。


「いずれにせよ、王都に滞在する間、諸君の身の安全はギルドが保障する」

「あ、ありがとうございます……」

「余計なマネさえしなければ、な」


 キルステンさんの視線が再びスセリに向いた。


「必要なら護衛もつけよう」

「いらんのじゃ」

「……ロッシュローブ教団を甘く見ているようだな」

「おぬしこそ、ワシらを甘く見ているのじゃ」


 スセリとキルステンさんのやり取りに、俺はさっきからひやひやしっぱなしだった。



 冒険者ギルドの外に出ると、どっと疲れが押し寄せてきてため息をついた。


「スセリ。お前本当に怖いもの知らずだな」

「実にうれしい誉め言葉なのじゃ」

「それにしても、ギルド長さん、怖い人でしたね」


 プリシラの言葉にマリアがうなずいて同意する。


「悪い人ではなさそうでしたけれど」


 ギルド長、エトガー・キルステン。

 必要とあらば冷酷な判断も下せる人間なのだろうと感じた。

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