50-1
そして翌朝。
俺は扉を激しく叩く音で目を覚ました。
扉を開けると、満面の笑みを浮かべたプリシラが立っていた。
「アッシュさまっ。陸が見えてきましたよっ」
興奮したようすのプリシラに手を引かれて、寝ぼけ眼をこすりながら甲板に出る。
朝のまぶしい光が目を刺す。
まぶたを半分だけ閉じ、少しずつ光に目を慣らす。
「あそこに陸が見えますよっ」
片目ずつ目を開ける。
細い視界が徐々に広まっていき、目の前の光景が明瞭になっていく。
船首の先に――陸が見えた。
「ようやくですわね」
「どうじゃ。船旅はさぞかしつまらなかったろう」
マリアとスセリもやってくる。
周囲を見てみると、他の乗客たちも大勢甲板に出ていて、陸が見えたことに歓喜していた。
水平線に沿って広がる、平べったい大地。
あそこが王都グレイス。
俺たちの目的地。
船は風を受けて帆をふくらませ、気持ちのよい速度で海を進んでいる。
いい加減うんざりしていた青い海の景色も、目的地が見えた今は再び色鮮やかに感じられた。
「建物が見えますわ」
マリアが双眼鏡で大陸を見ている。
「プリシラも見てみなさいな」
「ありがとうございますっ。マリアさまっ」
マリアから双眼鏡を受け取ったプリシラはわくわくした表情で手すりにつかまり、前のめりになって大陸を眺めだした。
スセリは大きく背伸びしてあくびしている。
「ワシはもうひと眠りするのじゃ。王都に着いたら起こすのじゃぞ」
そう言って俺たちに背を向けた――そのときだった。
「待て、スセリ!」
「ん?」
「あれを見ろ!」
俺は海の向こうを指さす。
そこには竜がいた。
竜が海面から頭だけ出して、船と並んで泳いでいた。
海竜だ。
他の乗客たちも海竜の存在に気づき、ざわつきだす。
水夫たちが武器を持って甲板に集まりだす。大砲の準備を船長が指示している。
歓喜から一転して周囲に緊張が走る。
あともう少しで王都に着くのに、魔物と出くわすなんて……。
「スセリ。俺たちで海竜を倒そう」
「いや、それには及ばんのじゃ」
「えっ」
魔物が目の前にいるにもかかわらず、スセリは平然としていた。
「ほれ、よく見るのじゃ」
海竜を指さすスセリ。
彼女に促されてそいつをじっと見てみる。
「愛嬌のある顔をしておるじゃろ?」
「い、いや、俺には凶暴な怪物の顔にしか見えないが……」
ノノさんならかわいいと言うだろうが。
「船長よ、大砲は撃たんでよいのじゃ」
「海竜が間近に迫ってきているのだぞ!?」
「あの海竜に敵意はないのじゃ。おーいっ」
スセリが海竜に向かって手を振る。
すると海竜は甲高い鳴き声で彼女に応じた。




