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巨人は魔法円から出現したいばらに拘束され、ハンマーを振り上げた姿勢のまま身動きがとれなくなった。
「甘いのう。ワシが助けにこなかったら、今頃ぺしゃんこだったのじゃ」
背後からやってきたのは銀髪の少女――スセリだった。
間一髪のところでスセリが魔法で助けてくれたらしい。
「アッシュ!」
「アッシュさまっ」
続いてマリアとプリシラも現れた。
「さて、と」
スセリは白いローブの暗殺者ミスティアと対峙する。
油断ならない者だと察したのだろう。ミスティアは口を結び、短刀を持った細い手をローブから出す。
「お前が『稀代の魔術師』スセリだな」
「いかにも。おののくがよい」
スセリが頭上に掲げた手をぐっと握る。
その瞬間、いばらが限界まで巨人を絞めつけ、ついにはその硬質の身体を木っ端みじんに粉砕した。
巨人の彫像はバラバラになって甲板に散らばる。
ごろん、とスセリの足元に巨人の頭が転がってくる。
「次はおぬしの番じゃぞ。邪教の徒よ」
「……」
ミスティアは沈黙を保っている。
しばしの沈黙の後、彼女は小声で魔法を唱えた。
なんと唱えたかは聞き取れなかったが、彼女のそばに翼の生えた猛獣が召喚された。
「グリフォンじゃな」
グリフォンを俺たちにけしかけるつもり――かと思いきや、ミスティアはグリフォンに飛び乗って背中にしがみついた。
主を乗せたグリフォンは翼をはばたかせ、夜の空に舞い上がる。
「我らロッシュローブ教団に刃向かったが最後。安息は二度と訪れぬと知れ」
そう捨て台詞をはいてミスティアはグリフォンを駆り、夜の暗闇に消えていった。
「逃がしてよかったのですの? スセリさま」
「船の上でむやみに戦うのは危険なのじゃ。あえて逃がしてやったのじゃ」
「アッシュさま、ケガはありませんか?」
「ああ。俺なら心配ない……」
「というか、スセリさま。こんなかんたんに魔物を倒せるのなら、ガーゴイルのときにどうして本気を出さなかったんですの?」
「おぬしらに戦いの経験を積ませるためなのじゃ」
「……」
「……アッシュさま。どうされました? ぼーっとしていますよ」
プリシラが俺の顔を覗き込んでくる。
俺は先ほどから考えていたことを皆に話した。
「ミスティアって名乗ったさっきのロッシュローブ教団の刺客、俺をわざわざ甲板までおびき出した。その気になれば、部屋に忍び込んで寝ているところを殺せたにもかかわらずだ。船だって誰にも気づかれずに沈められたはずだ」
「どうしてでしょうね……」
うーんとうなる俺たち。
ミスティアはなにか目的があって俺をおびき出した。
その『目的』とは一体……。
「とりあえず、命拾いしたと思っておくのじゃな」
「そうですよねっ。アッシュさまがご無事ならそれでいいのですっ」
「……そうだな」
襲い掛かってきた脅威はとりあえず退けたものの、もやもやとした気持ちは晴れなかった。




