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49-5

 巨人は魔法円から出現したいばらに拘束され、ハンマーを振り上げた姿勢のまま身動きがとれなくなった。


「甘いのう。ワシが助けにこなかったら、今頃ぺしゃんこだったのじゃ」


 背後からやってきたのは銀髪の少女――スセリだった。

 間一髪のところでスセリが魔法で助けてくれたらしい。


「アッシュ!」

「アッシュさまっ」


 続いてマリアとプリシラも現れた。


「さて、と」


 スセリは白いローブの暗殺者ミスティアと対峙する。

 油断ならない者だと察したのだろう。ミスティアは口を結び、短刀を持った細い手をローブから出す。


「お前が『稀代の魔術師』スセリだな」

「いかにも。おののくがよい」


 スセリが頭上に掲げた手をぐっと握る。

 その瞬間、いばらが限界まで巨人を絞めつけ、ついにはその硬質の身体を木っ端みじんに粉砕した。

 巨人の彫像はバラバラになって甲板に散らばる。

 ごろん、とスセリの足元に巨人の頭が転がってくる。


「次はおぬしの番じゃぞ。邪教の徒よ」

「……」


 ミスティアは沈黙を保っている。

 しばしの沈黙の後、彼女は小声で魔法を唱えた。

 なんと唱えたかは聞き取れなかったが、彼女のそばに翼の生えた猛獣が召喚された。


「グリフォンじゃな」


 グリフォンを俺たちにけしかけるつもり――かと思いきや、ミスティアはグリフォンに飛び乗って背中にしがみついた。

 主を乗せたグリフォンは翼をはばたかせ、夜の空に舞い上がる。


「我らロッシュローブ教団に刃向かったが最後。安息は二度と訪れぬと知れ」


 そう捨て台詞をはいてミスティアはグリフォンを駆り、夜の暗闇に消えていった。


「逃がしてよかったのですの? スセリさま」

「船の上でむやみに戦うのは危険なのじゃ。あえて逃がしてやったのじゃ」

「アッシュさま、ケガはありませんか?」

「ああ。俺なら心配ない……」

「というか、スセリさま。こんなかんたんに魔物を倒せるのなら、ガーゴイルのときにどうして本気を出さなかったんですの?」

「おぬしらに戦いの経験を積ませるためなのじゃ」

「……」

「……アッシュさま。どうされました? ぼーっとしていますよ」


 プリシラが俺の顔を覗き込んでくる。

 俺は先ほどから考えていたことを皆に話した。


「ミスティアって名乗ったさっきのロッシュローブ教団の刺客、俺をわざわざ甲板までおびき出した。その気になれば、部屋に忍び込んで寝ているところを殺せたにもかかわらずだ。船だって誰にも気づかれずに沈められたはずだ」

「どうしてでしょうね……」


 うーんとうなる俺たち。

 ミスティアはなにか目的があって俺をおびき出した。

 その『目的』とは一体……。


「とりあえず、命拾いしたと思っておくのじゃな」

「そうですよねっ。アッシュさまがご無事ならそれでいいのですっ」

「……そうだな」


 襲い掛かってきた脅威はとりあえず退けたものの、もやもやとした気持ちは晴れなかった。

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