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垂直降下からの一撃が急所に命中し、ガーゴイルが甲高い鳴き声を上げる。
そして赤い目の光が消え、彫像のように硬直した。
倒した……のか?
深々と刺さった剣から手を離し、おそるおそる後ずさる。
微動だにしないガーゴイル。
スセリがガーゴイルに近づき、硬直した身体をコンコンとこぶしで叩いた。
「魔法が解けたようなのじゃ」
「どういうことですか? スセリさま」
「ガーゴイルは魔法によって彫像にかりそめの命を宿された魔物なのじゃ」
つまり、絶命したガーゴイルはただの彫像に戻ったわけか。
魔物の脅威が取り除かれたとわかるや、周りで俺たちの戦いを見守っていた水夫たちが歓声を上げた。
「やりましたーっ」
ぴょんぴょん飛び跳ねるプリシラ。
マリアもほっと息をついていた。
帽子をかぶった立派な身なりをした男性――おそらく船長であろう人が現れて俺たちに感謝を述べた。
皆が浮かれている中でただ一人、スセリだけが真剣な顔をしていた。
あごに手を添えてうつむいて考え込んでいる。
「スセリ。気がかりでもあるのか」
「さっきも言ったじゃろ。ガーゴイルは魔術師によって生み出される魔物なのじゃ」
どこかの魔術師が船に危害を加えるためにけしかけてきた。
そうスセリは言いたいようだ。
「まさか、俺たちの『オーレオール』を狙って……?」
「わからん。推察するための手がかりがなさすぎるのじゃ」
ただ一つわかるのは、この船は何者かに狙われていること。
俺たちは無事に王都グレイスにたどり着けるのだろうか。
一抹の不安がよぎった。
その日の晩、自室のベッドで眠っていた俺は物音に気付いて目を覚ました。
誰かが扉をノックした……?
ベッドから起きたのと同時に船が揺れ、少しふらついてサイドテーブルに手をつく。
寝起きで夜に目がなれておらず、手探りでドアノブを握る。
扉を開ける。
誰もいない。
丸い窓から差し込むほのかな月明かりが船内をさみしく照らしている。
気のせいだったか。
――いや、違う!
廊下の曲がり角に人影を見つけた。
白いローブをまとい、目深にかぶったフードで顔を隠した人物。
見覚えがある。
魔王ロッシュローブをあがめる邪教の手先、ナイトホーク!
ナイトホークの姿が曲がり角の向こうに消える。
俺は廊下を走ってナイトホークを追った。
ナイトホークは俺に追いつかれぬよう、しかし見失わせもしない絶妙な距離感を保ち、音もなく走っている。
露骨に誘い込まれている。
それでも俺はナイトホークを追跡していた。
甲板に出る。
真夜中の黒い空が頭上に広がっている。
甲板のど真ん中には、昼間に倒したガーゴイルがそのまま残っていた。
ナイトホークはそのそばに立っていた。




