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赤髪の魔術師ノノさんは俺の手を取る。
「それにしてもすごいわねー。カギを召喚できちゃうなんて。どういう修行を積んだのかしらー」
「修行とかそういうのはしてません」
「ますますすごいわー」
どうして金属を召喚できるのか。
どうして召喚したカギがカギ穴と合致するのか。
そのあたりは実のところ俺にもよくわかっていなかった。
「お礼にお茶とお菓子をごちそうするわ。さっ、おうちに入って入って」
ノノさんに背中を押され、俺とプリシラはノノさんの家に招かれた。
ノノさんの家は、はっきり言って散らかり放題だった。
部屋の中心には大きな釜がでん、と置いてあり、その周辺には干からびたイモリやら謎のドクロやら水晶玉やら、錬金術の素材らしきものがあちこちに転がっていた。
あまりにの散らかりっぷりにプリシラは目が点になっている。
ノノさんはまったく平気なようすで、「よっこらしょっと」と壁に木槌を立て掛けてから戸棚を漁り、茶葉の入った瓶を手にして釜の前に立つ。
「私、この村で錬金術で道具を作って生計を立ててるの。村の人たちには結構頼りにされてるのよー」
「この釜は錬金術に使うんですね」
「そうよー」
錬金術の釜に茶葉を放り込みながらノノさんは言う。
それから大きなかき混ぜ棒で釜を混ぜる。
すると釜の中が光り輝く。
「来たれ!」
ノノさんがそう唱えると、俺たちが座るソファの前のテーブルに魔法円が出現した。
魔法円からは三人分のティーカップ、それとティーポットと皿に載ったクッキーが出現した。
これが錬金術……。
「まるでアッシュさまの召喚術みたいですね」
「召喚術も錬金術も、理論の基礎はいっしょなのじゃ」
魔書『オーレオール』から現れたスセリがそう答えた。
「あらー、いつの間にかお客さんが一人増えてるわー」
「お邪魔するのじゃ。茶と菓子を馳走になるぞ」
俺がスセリと『オーレオール』のことをかいつまんで説明する。
ノノさんは「驚きだわー」とぽんっと手を合わせた。
「魔書に魂を封じて永遠の命を手に入れたのね!」
「いかにも。ワシは無限の命を持っておるのじゃ」
えっへん、と胸を張るスセリ。
その間、プリシラが各々のティーカップに紅茶を注ぐ。
湯気と共にカモミールのよい香りが立ち上る。
「『稀代の魔術師』スセリ。お名前だけは私も聞いたことあるのよ。同じく稀代の魔術師とうたわれたセヴリーヌっていう人と不老不死の研究をしていたんですってね」
セヴリーヌ!
思いもよらぬ人物の口からその名が出てきて、俺とプリシラは互いの顔を見合った。
「俺たち、そのセヴリーヌっていう人に会いにいく途中なんです」
「まあ、200年も昔の人なのに?」
「ワシと同様、セヴリーヌも不老不死を半分完成させておったんじゃ。今も『一応』生きておるのじゃ」
スセリは意味深に『一応』の部分を強調した。




