49-2
突如、甲板に襲来した魔物――ガーゴイルの前に立つ。
ガーゴイルも俺たちを敵とみなし、槍の矛先を向けてきた。
「プリシラ。おぬしが戦うのじゃ」
「承知しましたっ」
「俺も魔法で援護する」
「いや、魔法は使ってはならぬ」
どうして――と言いかけたところでスセリが制した意味を理解し、言葉を飲み込む。
ここは船の上。
狙いの外れた魔法が船に被弾したら大事故につながりかねない。
こんな海のど真ん中で難破したら一巻の終わり。
だから慎重に戦わなくてはならないのだ。
俺は召喚術で剣を呼び出して構える。
マリアも魔法で光の剣を生み出した。
プリシラはロッドを手に、正面からガーゴイルをにらみつける。
俺とマリアは左右に分かれて側面を取る。
スセリは転移魔法で背後に回る。
これでガーゴイルを包囲した。
ガーゴイルは俺たちをまとめて蹴散らそうと、槍で周囲を薙ぎ払った。
予備動作の大きいその攻撃は全員たやすくよけられた。
続けざまに繰り出された攻撃も回避する。
よけてばかりいるわけにはいかない。
ガーゴイルは船のことなどお構いなしに暴れ続けるだろう。
船に被害が及ぶ前に、速やかに撃破しなければ。
「メイドの一撃ですーっ!」
プリシラが間合いを詰めて飛び上がり、ロッドの一撃をくらわせる。
しなったロッドの先端がガーゴイルの頭部に直撃する。
ガキンッ。
金属同士のぶつかる音がして、プリシラは空中で跳ね返された。
「か、固いですっ」
プリシラの渾身の一撃にもものともしないとなると、打撃は通じないか……。
「わたくしが参りますわ!」
次にマリアが攻撃を試みる。
ガーゴイルが槍で応戦する。
武器の間合いで負けたマリアは、接近を諦めざるを得なかった。
スセリが「やれやれ、なのじゃ」と肩をすくめる。
「連携がなってないのじゃ」
「スセリさま。見ていないで戦ってくださいまし!」
「わかっておるのじゃ。ワシがおとりになる。その隙に攻撃するのじゃ」
ちなみに、とスセリは続ける。
「ガーゴイルは翼の付け根がもろいのじゃ」
「翼の付け根ですわね!」
「さて、と。ガーゴイル! おぬしの敵はこっちなのじゃ!」
スセリが赤くて丸い物体を放り投げた。
リンゴだ。
急な弧を描いて投げられたリンゴはガーゴイルの頭にあたった。
当然ながら無傷。
しかし、ガーゴイルの注意が背後のスセリに向いた。
今だ!
俺は身体能力強化の魔法を自身に掛け、空高く跳躍した。
カモメよりも高く飛翔する。
切っ先を下に、剣を垂直に構え、ガーゴイルの真下に落下した。
ガーゴイルの背中に着地するのと同時に、落下の勢いを乗せた剣の刃を翼の付け根に突き刺した。




