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49-1

 こうして俺たちの楽しい船旅が始まった。

 ――と思っていたのは初日だけだった。


 大きな船であるにもかかわらず、乗客が自由に歩ける場所は思いのほか少なく、一日で大体の場所を見てしまえた。

 出される料理は火気厳禁のためか、味気ないものばかり。

 最初はその雄大さに感動していた大海原も、今はただ青い色が広がっているだけのつまらない景色としか思えなかった。


 狭い箱に閉じ込められている、解消しようのない窮屈さに苦しんでいる。

 つまるところ、飽きたのだ。


「あっ、アッシュさま」


 船内を散歩していると、プリシラと鉢合わせた。

 ぼけーっとした顔をしていた彼女は、俺の姿を認めるや無理に笑顔をつくる。


「たっ、楽しい船旅ですねっ。……あはは」

「退屈ならそう言っていいんだぞ」


 プリシラの笑顔が苦笑いに変わった。

 そこにマリアが現れる。

 彼女の表情からも退屈さが見てとれた。


「遊戯室でカードゲームでもするか?」

「もうとっくに飽きましたわ」

「でしたらマリアさま、甲板に出ましょうか?」

「そうですわね……」


 マリアは丸い窓に移る青い景色を眺める。


「船旅って、存外つまらないのですわね」


 俺もプリシラもその言葉に同意した。

 王都グレイスに着くまであと三日。

 三日……。

 たったの三日が途方もなく感じてしまう。

 こんなことなら、ケルタスで本でも買っておくべきだった。


 ――と、そんなとき、船内がにわかに騒がしくなった。

 床をうるさく鳴らしながら水夫たちが船内を走っていく。

 なにか起きたのか……?


「魔物が出たぞ!」


 甲板から降りてきた乗客の男がそう叫んだ。

 続いて男を押しのけて、他の乗客たちが甲板から大慌てで降りてきた。

 ざわつく船内。

 顔を見合わせる俺とプリシラとマリア。


「行きますわよ」


 俺たちは乗客たちの流れに逆らって甲板に上がった。



 甲板には一体の魔物がいて、それを水夫たちが包囲していた。

 魔物は硬質の黒い肌で、コウモリに酷似した翼を生やした、いかつい悪魔の姿。

 両手で槍を握っている。

 悪魔と水夫たちは互いの間合いの外からにらみ合っている。


「ガーゴイルなのじゃ」

「スセリ!」


 いつの間にか俺たちの後ろにスセリがいた。

 ガーゴイル。

 スセリが言うに、それがこの魔物の名前らしい。


「妙なのじゃ。どうしてガーゴイルが海に……」

「お客さんは船内に避難してください!」


 水夫の一人が俺たちの前に立ちはだかり、船内に逃げるよう促してくる。


「いえ、俺たちも戦います」

「わたしたち、冒険者なんですっ」

「魔法の心得はありましてよ」

「加勢して進ぜよう」


 すると水夫は一転して「冒険者か! それは助かる!」と道を開けてくれた。

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