48-4
いよいよ出航の日が訪れた。
俺とプリシラ、マリア、スセリの四人は、たくさんの船が並ぶケルタスの港にいた。
空は快晴。
船出にふさわしい日和だ。
見送りにきてくれたのは『夏のクジラ亭』のクラリッサさんとヴィットリオさん夫婦。
ガルディア家の次期頭首、ディア。
それからエルリオーネ家の幼き令嬢、ミュー。
……スセリの古い友人である不老の少女、セヴリーヌはいない。
「いってらっしゃい」
クラリッサさんが満面の笑みを見せてくれる。
「身体には気をつけろ」
ヴィットリオさんはあいかわらずぶっきらぼうな物言いだ。
「みなさまの新たなる旅が易からんことを祈っています」
ディアが胸の前に手を添えて言う。
……彼女はさっきからずっと俺を見つめている。なにか言いたげに。
「アッシュさん。どうかわたくしとの結婚を真剣に考えていただければ」
「そ、それは……」
う……。言うと思った……。
困った。
大いに困った。
視線を横に向ける。
プリシラははらはらとした表情。
マリアは「わかってますわよね?」と言いたげな顔をしている。
俺が返事を言いあぐねていると、スセリが唐突にこう言った。
「残念ながらディアよ。アッシュはワシの夫になると約束しておるのじゃ」
「ええっ!?」
ミューを除く全員が同時に声を上げた。
ミューだけはぽかんとしている。
「冗談じゃよ。のじゃじゃじゃじゃっ」
「スセリさまってば……」
「でも、スセリちゃんもせっかく若返ったんだから、新しい旦那さんを見つけてもいいんじゃない?」
「うむ。クラリッサの言うことも一理あるの」
「王都で見つけてきなさいな。新たな出会いを」
「スセリさまはどのような男性が好みなのですか?」
「それはじゃな――」
スセリが茶化してくれたおかげで話題がそれてくれた。
もしかしてスセリ、助けてくれたのか……?
ミューが小さな歩幅でとことことプリシラに近づき、彼女の手を握る。
「プリシラー。やくそくおぼえてるー? 手紙書いてねー」
いつものどこか眠たげで間延びした声で言う。
プリシラは「はいっ」とうなずく。
「王都に着きましたら真っ先にミューさまに手紙を差し上げます」
そうか。二人は文通をする約束だったっけな。
「アッシュ。私たちにも手紙を書くのを忘れないでよ」
「もちろんですよ。クラリッサさん」
そのとき、クラリッサさんの目がきらりと光った。
そして、一粒のしずくがこぼれ、頬を伝った。
「あらやだ。私ったら。ごめんなさい」
「クラリッサ」
涙をこぼす妻の肩にヴィットリオさんが手を添える。
「うううっ……。クラリッサさま。今までお世話になりましたっ」
プリシラもつられて涙ぐんでいた。




