48-3
しなだれかかってくるスセリ。
彼女の体温が伝わってくる。
胸の鼓動が早まる。
どうにかなりそうになった俺は、すぐさま彼女を引きはがした。
彼女はなおも不敵な笑みを浮かべている。
「何度も言うが、スセリは俺のご先祖さまだろ!」
「ほう。では、他人同士だとしたら、ワシを好いておったのじゃな?」
すぐさま否定すればいいはずなのに、俺は口ごもってしまった。
銀色の美しく長い髪が月明かりに照らされ、美しくきらめている。
白い肌。
人形のように小柄な身体。
妖艶な笑み。
くやしくも、俺はスセリに見とれてしまったいた。
「からかうのはそこまでにしてくれ。俺の負けでいいから」
「からかってなどおらん」
その場から立ち去ろうと背を向けたころに、スセリが抱きついてきた。
そして、甘えるように言った。
「ワシがさみしくないと思っておるのか」
「……すまない」
二つの意味を込めて俺は謝った。
しかし、それでもスセリはなおも俺に抱きついている。
腰に回した、か細い二本の腕。
「おぬしは誰にもやらんのじゃ。プリシラにもマリアにもじゃ。おぬしが最後に寄り添うのはこのワシなのじゃ」
思い返せば、封印から目覚めたスセリが最初に出会ったのが俺だった。
長い年月を眠って過ごした彼女にとって、目覚めた世界は見知らぬ世界だったのだろうか。
スセリは孤独を感じていたのだろうか。
だとすると、最初に出会った俺を好いているのも本心なのかもしれない。
それからしばらく静寂が続いた。
お互いその場にたたずみ、時間が凍ったかのように身動きしなかった。
俺はなにも言うことができず、かといって抱きしめる彼女を離すこともできずにいた。
「さて、アッシュをからかうのもこの辺にしておくのじゃ」
スセリの口調がいつものふざけた調子に戻った。
それから大きなあくびをする。
「いい加減、寝るかの」
「あ、ああ……。明日は出航の日だからな」
「おやすみ、なのじゃ」
スセリは自分の部屋に帰っていった。
……スセリのことも、もっと気にかけたほうがいいのかもしれない。
100年以上も生きている不老の人間である彼女。
普通の人間から逸脱した賢人のような印象を勝手に抱いていたが、さっきのスセリはどこにでもいる、さみしがりやの女の子だった。
それから部屋に戻ってベッドに入ったが、なかなか眠れなかった。
抱きしめられたときに垣間見た、スセリの孤独。
それを知ってしまったからには、ないがしろにするわけにはいかない。
……とはいえ、さすがに結婚するつもりはないけれど。




