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48-2

「そうか。あの子供、ノノと暮らすことになったか」


 夜。『夏のクジラ亭』のバルコニーに俺とスセリはいた。

 お前も子供だろ。

 と言いかけて口をつぐむ。

 スセリは外見こそ子供だが、中身は大人どころか老人だったのを思い出したから。


「運がよかったのじゃ。あのまま貧困層居住区で暮らして冒険者稼業を続けていては、いつ悲惨な末路をたどってもおかしくなかったからの」


 スセリもオーギュストさんと同じくそう言った。

 冒険者とはていの良い言いかたで、悪く言えば国に管理されたならず者の集団。

 自分自身が冒険者になって他の冒険者との交流でわかった。多くの場合、まともな仕事に就けない者がしかたなく冒険者となるのだ。

 ネネもその一人だった。


「あやつ、アスカノフを見たら腰を抜かすかもしれんの。のじゃじゃじゃじゃっ」


 アスカノフ――ノノさんに仕えている竜。

 確かに、あのへんぴな村に竜がいるだなんて思いもよらないだろう。

 別れる前に言っておくべきだったか。


「ワシらもいよいよ船出の時じゃな」


 王都グレイスへの旅立ち。

 その日はいよいよ明日となった。

 船に乗り、王都のある大陸へと俺たちは向かう。


「この美しい夜景もしばらくは見納めじゃな」


 眼下に広がるケルタスの夜景。

 手前に無数の建物が立ち並び、窓からこぼれる明かりが地上の星となっている。

 景色の奥には静かに波打つ黒い海。

 そして空には丸い月がかかっており、青白い光で夜の世界を照らしていた。


「意外だな」

「なにがじゃ?」

「スセリが夜景を見て感動しているのが」

「ワシをなんだと思っておるのじゃ」


 スセリがジトっとした目つきをする。


「スセリってそういうのとかくだらないと思ってそうだったから」


 俺はスセリについてあまりにも無知だった。

 好きなものとか嫌いなものとか、ぜんぜん知らない。

 俺にとって彼女はのじゃのじゃ言うだけの変人だ。


「スセリの好きなものってなんだ?」

「……アッシュよ。おぬし、ワシと共に旅をはじめてどれくらい経ったと思っておるのじゃ」


 案の定、呆れられてしまった。


「ワシがプリシラやマリアでなくてよかったのう。あの二人にそんなこと言えば、間違いなく失望されておったのじゃ」


 積極的に相手を知ろうとしない。

 それが俺の欠点だった。

 一応、自覚はしていたが、なかなか直せない。


「ワシが好きなのはのう――」

「真面目に答えてくれよ」

「わかっておるのじゃ」


 咳払いするスセリ。


「ワシが好きなのは――」


 そして俺を指さす。


「アッシュ。おぬしなのじゃ」


 不敵な笑みを彼女は浮かべた。


「まっ、真面目に答えるって言ったろ!?」

「ワシはしごく真面目なのじゃ」

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