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47-7

 ネネの表情が曇っているのは、気分がすぐれないからではないだろう。


「結局、どうあがいてもアタシは子供なんだな」


 くやしげにそう言う。


「大人に助けてもらわないと生きていけない。本当はわかってたんだ」


 これしか着替えがなかったのだろう。ネネは普段ははかないスカート姿だった。

 本人のもどかしい気持ちをよそに、俺は「かわいいな」と心の中で思ってしまっていた。


「わかってたけど、でも、大人には頼りたくなかった。アタシは一人で生きていけるんだ、って思っていたかったんだ」


 それはただの意地でしかない。

 その意地を張ることで、この貧困層居住区で彼女はかろうじて生きてこられたのだ。

 妹二人を養うため、子供ではいられなかった。


「おねえちゃん……」

「ネネおねえちゃん……」


 心配そうなまなざしを姉に送る妹たち。


「困ったときは助け合いよ」


 ノノさんがにっこり笑う。

 目をそらすネネ。

 そのしぐさでノノさんはネネの心情を察したらしく、やさしくこう言った。


「大人だって、一人じゃ生きていけないのよ」

「えっ。そうなのか……?」


 ネネがちらりとノノさんの顔を見る。

 ノノさんはうんとうなずく。


「人は一人でやれることに限界があるもの。だから自分にできないことは他の人の力を借りればいいの。それは恥ずかしいことでも未熟なことでもないのよ」

「でも――」

「現にネネちゃんは冒険者としてケルタスの人たちを助けてるじゃない」

「――あっ」


 はっと気が付いたネネはそう声を出した。


「助けを求めるって、当たり前のことなんだな」

「そうよ」


 落ち込んでいたネネが元気を徐々に取り戻してくる。

 そして吹っ切れたように「あははっ」と笑ってみせた。


「ネネおねえちゃんが元気になったーっ」

「なったーっ」


 ネネの妹二人がぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。


「なあ、ノノさん」

「ノノでいいわよ」

「いや、ノノさんって呼ばせてもらう。アンタは年上だからな」


 それからネネは驚くことを口にした。


「ノノさん。アタシ、アンタと暮らしてみたい」

「まあっ」

「お前たちもそうだろ?」


 姉に尋ねられた妹たちは「うんっ」と元気に首を縦に振った。


 そういうわけで、ネネと妹たちはノノさんの家で暮らすことになったのだった。


「うれしいわー。一度に妹が三人もできたなんて」


 ノノさんはご機嫌だった。



 一度決まるとあとは早く、次の日にはネネたちはケルタスを発つことになった。


「アッシュたちも王都に行くんだろ? しばらくは会えなくなるな」

「手紙を送るさ」

「えっ。それって返事を書かなくちゃいけないのか?」


 妙な質問をされて俺は「あ、ああ」とあいまいに返事をする。

 ネネはばつが悪そうに頭の後ろをかく。


「アタシ、字がヘタだからさ……」


 なるほど。


「ははっ。それは楽しみだな」

「ばっ! からかうなっ」


 ネネは上目遣いににらみつけてきた。

 ほっぺたが真っ赤だ。

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