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ドーン! と景気のいい音がする。
俺とプリシラはその音と衝撃で思わず飛び上がった。
「待て待て待て!」
「わー! おうちが壊れちゃいますよー!」
俺たちは慌てて赤髪の女性のもとへ駆け寄り、彼女を制止した。
家の扉を破壊せんと大きな木槌を振り上げる彼女を俺がはがい絞めにする。
香水のバラの香りが鼻を刺激する。
「あららら」
俺に拘束されたせいで姿勢を崩した赤髪の女性は、木槌の重さに逆らえず仰向けに転んでしまった。
そして、必然的に俺を下敷きにした。
「アッシュさま!?」
「あらー、ごめんなさいー。ふふっ」
俺を下敷きにしたまま、赤髪の女性は口元を押さえて笑う。
そしてひょいと俺の上からどいた。
「でもー、あなたもいけないのよー? いきなり後ろから抱きついてくるなんて」
頬に手を添えてそう言う。
「どうしていきなり抱きついてきたのかしらー。もしかして、この媚薬を含んだ香水の効果が発揮されたのかしらー。だとしたら錬金成功ねー」
彼女はどこかおっとりとしたしゃべりかたをしていた。
香水の香り、ルビーのごとく美しい髪、赤い口紅が塗られたつややかな唇。そして露出が多めな赤い魔術師の衣装――彼女からは大人の魅力を感じた。
「いえ、俺たちはあなたがいきなり家屋を壊そうとしたから止めに入ったんです」
「あらー、そうだったの」
頬に手を添えたまま彼女はふふっと笑った。
「実はねー、ここは私のおうちなんだけどー、家のカギをなくしちゃったのよ」
だから強硬手段を取ろうとしたのか!?
「鍛冶屋さんに合カギを作ってもらうにもお金がかかるじゃない?」
「壊した扉を修理するほうがもっとお金がかかりそうですが……」
「そうかもしれないわねっ」
と彼女はウィンクした。
なんていうか、『天然』の一言が似合う女性だな。
いろんな意味で危なっかしい。
「家の扉のカギなら俺が『召喚』しますよ」
「えっ、召喚?」
「見ててください」
俺は目を閉じ、精神を集中させる。
そして頭の中で思い描く――『カギ』のかたちを。
魔力が全身を駆け巡る。
「来たれ!」
そう唱えると、赤髪の女性の目の前に魔法円が浮かび上がり、そこから小さな物体が出現した。
ぽとり。
彼女の手のひらの上にそれは落ちる。
「カギだわ!」
彼女はさっそく俺の召喚したカギを玄関の扉のカギ穴に差し込む。
そして腕をひねる。
差し込まれたカギはするりと半回転し、カギ穴からガチャリと音がした。
「開きましたねっ、アッシュさま」
「まぁ、すごいわー」
ドアノブを回して引っ張ると扉はゆっくりと開いた。
「ありがとうー。えっと、マッシュくん?」
「アッシュです」
「アッシュくん、ありがとう。そちらのメイドさんは」
「プリシラと申します」
「プリシラちゃんもありがとうー。私はノノっていうの」
赤髪の魔術師はノノと名乗った。
「おかげで扉を壊さずにすんだわ。ふふっ」
人物紹介
【ノノ】
小さな村に暮らしている美しい女性。




