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「安心して。お姉ちゃんたちが助けてあげるわ」
ノノさんはネネの妹二人を抱きしめて安心させてあげた。
そして俺に目くばせする。
俺はネネの横たわるベッドの前に立ち、手をかざした。
魔書『オーレオール』から魔力を借り、治癒の魔法を唱える。
淡い光がネネを包む。
……だが、いくら待っても彼女の顔色はよくならない。
どうしてだ。
魔法が効いていない。
「どうしたの? アッシュくん。前みたいに魔法で熱を冷ませないの?」
「理由はわかりませんが、魔法が効かないみたいです」
魔法に失敗したのかと思い、もう一度唱えるも、ネネの苦しげな顔がやわらぐことはなかった。
俺は焦りだす。
治癒魔法の効果が無いなら、医者を呼ばないと。
「待って、アッシュくん」
医者を呼ぶため家を出ようとした俺をノノさんが制止した。
けさがけに提げたカバンの中身をあさるノノさん。
そして手の中になにかを握り、それをネネの口に含ませて水で流し込ませた。
「なにを飲ませたんです?」
「薬よ。私特製の万能薬。ケルタスに来るまでの旅路でなにかがあったときのために用意しておいたの」
効果はすぐに表れた。
ネネの苦しげな息づかいが落ち着き、茹でられたみたいに真っ赤だったほっぺたもみるみる元の色に戻っていった。
ネネの額に手を触れる。
「すごいです。あっという間に熱が冷めました」
「どう? 私って頼れるお姉さんでしょ?」
ノノさんは得意げな顔をして「えっへん」と胸を張っていった。
これが錬金術師の本領か。
俺は驚きを隠せなかった。
そして俺のノノさんに対する印象が『変わり者のお姉さん』から『錬金術師のお姉さん』に格上げされた。
「ネネおねえちゃんの病気、治ったの?」
「ええ。もう治ったわよ」
ネネの妹二人は「わーいっ」と歓声を上げた。
「ネネちゃん、だいぶ汗かいてるわね。服を着替えさせてあげなくちゃ」
「そうですね」
「……」
「……」
「……え?」
なんだこの沈黙は。
ノノさんがジトーっと俺を見ているが。
「アッシュくーん。女の子が着替えるんだから――」
「――あっ。そ、そうですね……。俺、外に出てます」
気まずくなった俺は慌てて外に出たのであった。
まったく、俺ってヤツは……。
ため息をつく。
ともかく、ネネが快復してよかった。
「アッシュおにいちゃん。入っていいよー」
ネネの妹に呼ばれて家に戻る。
汗を拭われ、服を着替えたネネは清潔感を取り戻していた。
「すまない、アッシュ」
ネネ。目が覚めていたのか。
「俺は役立たずだったさ。ネネを助けたのはノノさんだよ」
「そうか……」




