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目をうるませてしがみついていたプリシラが離れる。
それで納得してくれたのだろう。
そういうわけで、俺たちはこの空中庭園に咲く花を持ち帰ることにした。
からっぽになっていた弁当箱に土を入れ、根から掘り起こした花を植える。簡易植木鉢だ。
俺とプリシラとマリアの三人分の弁当箱に、入る分だけ花を掘り起こして植えた。
そうして俺たちはケルタスに持ち帰る花を選別したのだった。
そしてとうとう、水晶を破壊しなければならなくなった。
「おぬしらは先に戻っておれ」
それはスセリの気づかいだった。
この美しい花畑が枯れるのを目の当たりにするのは、プリシラとマリアにはつらいだろう。
俺とプリシラとマリアは無言でうなずき、庭園を後にした。
もと来た道を辿り、塔を降りていく。
地上に戻ってきたころには、すっかり夜になっていた。
青黒い空にかかった黄色い三日月。
ちりばめられた星の数々。
肌寒い。
「残念でしたわね」
夜空を仰ぎながらマリアがつぶやく。
「はい」
落ち込んだようすのプリシラ。
罪悪感もわずかに見え隠れしている。
俺たち三人の手には、花畑の花を植え直した弁当箱。
かわいらしい小さな花が夜風に揺れていた。
「スセリも言っていたけど、あの花畑は本当は古代人が滅びるのといっしょに枯れる運命だったんだ。俺たちはほんの少しだけど花たちを助けられたんだ」
「……そうですわね」
マリアの力のない笑みから、割り切れない気持ちが伝わってきた。
「どこに植えましょうか。このお花さんたち」
「陽の当たる場所がいいだろうな」
「待たせたのじゃ」
しばらく塔の入り口の前にいると、遅れてスセリがやってきた。
俺たち四人はケルタスに帰り、冒険者ギルドで塔での出来事をギルド職員のオーギュストさんに報告した。花を植えた弁当箱を持ち帰ってきた俺たちをオーギュストさんはふしぎそうに見ていたが、報告を聞いて「なるほど」と合点がいったのだった。
「水晶は破壊したんだね」
「うむ。ワシが責任をもって破壊したのじゃ」
「僕としては、やはり残念だ。人類の文明発展につながるだろうに」
「持て余した力は災いと化す。これでよいのじゃ」
翌日。
塔から持ち帰った花を、ケルタスの中央公園の花壇に植えた。
もちろん、許可はもらっている。
オーギュストさんが市長に事情を説明してくれたのだ。
「ここがみなさん新しいおうちですよ」
プリシラがにこにこしながら花たちに話しかける。
人々がのんびりと過ごす公園。
そのいろどりの一部に花たちは加わった。




