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そして翌朝。
目が覚めると、俺のとなりではプリシラが静かな寝息を立てていた。
興奮が冷めなかった昨夜とは異なり、朝になると俺は冷静に彼女を見ることができた。
寝息に合わせて上下する小さな胸。
こうして間近で彼女の顔を見ると、まつげが長い……。
そしてやわらかそうなほっぺたにどうしても目がいってしまう。
魔が差した俺は指でぷにぷにと彼女のほっぺたをつついた。
ぷにぷに……。ぷにぷに……。
その指先を、頬から胸元へ移す。
今なら胸をつついてもバレないよな……。
いやいやいや、ダメに決まってるだろ! なに考えてるんだ俺!
心の中の悪魔を俺は理性で追い払った。
「ふえ……」
あ、目を覚ました。
プリシラのまぶたが半分だけ開く。
「おふぁようごらいます、アッシュさま……。ふあぁ」
上体を起こして大きく伸びをするプリシラ。
眠たげに目をこする。
「……はっ!」
自分の置かれている状況を思い出した下着姿の彼女は、慌てて両手で胸を隠した。
「おっ、おはようございます! アッシュさま! すぐ服を着ますので!」
ベッドから飛び降りて慌ててメイド服を身にまとった。
宿をチェックアウトした俺とプリシラはアークトゥルス地方へ向かうため、村を発とうとした。
ここから先は馬車が無いので徒歩での移動だ。
地図によると、二日ほど歩けば次の町に到着する。スピカの街よりも規模の小さな田舎町だ。
その町を経由すれば、いよいよアークトゥルスの街へたどり着く。
スセリの新たな身体の問題を解決できるという、セヴリーヌなる人物が住んでいる街だ。
そこが俺たちの次なる目標地点だ。
「アッシュさま。少々よろしいでしょうか」
宿屋を出たところでプリシラがそう言う。
「変なことをお尋ねしますが……。わたしが寝ているとき、もしかして、ほっぺたをつつきました?」
バレてた!?
「寝ているとき、なんだかほっぺたをぷにぷにさわられているような感触がした気がするんです」
「い、いや……。してないぞ」
俺はとっさにウソをついてしまった。
冷や汗が垂れる。
「ですよねっ。アッシュさまがそんないたずらをするわけありませんよねっ。気のせいですよね」
「あ、ああ……」
すまないプリシラ……。
「さ、さて、行くか――」
村を出ようとしたそのとき、俺たちの前を一人の女性が横切った。
燃えるような赤い髪。
耳にはイヤリング。
つばの広い帽子をかぶり、少々肌の露出が多い。
特に、肩がむき出しになっていて、たわわな胸の胸元は谷間が強調されている。
そんな魔術師の衣装を着た女性で、辺境の寒村の住人にしては垢抜けた格好をしており、否応にも俺たちの目を引いた。
そしてその女性は巨大な木槌を担いでいた。
「この村にも魔術師がいるのか」
――ほほう。なかなかの魔力を感じるの。
『オーレオール』の中からスセリがそう言った。
魔術師の女性の行方を目で追う。
彼女は大きな煙突がついたレンガの家の前に止まる。
そして――持っていた木槌で思いっきり扉を叩いた。




