46-2
瓦礫を吹き飛ばすような規模の魔法を使えば、この階自体が崩壊する危険がある。
そうマリアに説明する。
「でも、他に手段がありまして?」
「ああ。ある」
「さすがアッシュさまですっ」
「どんな手段ですの?」
転移魔法を使う。
俺はそう答えた。
「なるほど! 転移魔法を使って瓦礫の向こうに行くんですねっ」
「でも、転移魔法は危険な魔法だと聞きましたわよ」
「まあ、見ててくれ」
俺は魔書『オーレオール』の魔力を借り、瓦礫の山に魔法をかけた。
「転移せよ!」
魔法を唱えた瞬間、目の前にそびえていた瓦礫の山がこつ然と消え失せた。
「瓦礫が消えました!」
「転移させたのさ」
「わたくしたちではなく、瓦礫のほうを転移させましたのね」
「アッシュさまは機転が利きますねっ」
魔法がちゃんと成功していれば、転移させた瓦礫は今頃、塔の入り口付近にあるだろう。
これで先に進めるようになった。
――うむ。問題は解決したようじゃの。
半透明のスセリの姿が俺たちの前に現れる。
「助けられる立場のくせに偉そうだな」
「ワシは実際偉いからの」
まあ、スセリはその気になれば自分で脱出できるのだろう。
転移魔法も自在に使いこなせるし、転移の不安定さと危険性も大して気にしていないから、本当に一瞬で地上に帰れるはず。
それでも塔に居座っているのは、単なる戯れ。
『稀代の魔術師』の戯れに俺たちは付き合わされているのだ。
――先に言っておくのじゃ。この先には手ごわい機械人形がいるのじゃ。
「スセリはそいつを倒して先に進んだのか?」
――魔法の練習相手にうってつけだったのじゃ。
「倒したのなら、安心して進めますわね」
――倒したが、おぬしらのために直しておいたのじゃ。
「ええっ!?」
わざわざ直したのか……。
――おぬしらの実力、確かめさせてもらうのじゃ。
スセリの姿が消えた。
マリアは心底うんざりとした顔をしていた。
「スセリさま。自分が変人だと自覚しているのかしら」
「してるだろ」
あいつは変人の自分自身を存分に楽しんでいるのだ。
先へ進むとスセリの言った通り、機械人形が立ちはだかっていた。
二本足で立つ、人型の機械人形。
人間よりも一回り大きい。
頭部の巨大な一つ目の瞳孔が開き、俺たちを凝視している。
「こんにちは、みなさん」
「しゃべりました!」
プリシラが耳をぴんと立てる。
「私の名前はスセリロボ。ここを通りたければ私を倒すのです」
「スセリロボって……」
どうやらこの機械人形はスセリに乗っ取られているようだ。
「真剣勝負です」
「……と言っていましてよ? アッシュ」
「いいだろう。受けて立つ」




