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「こっちです」
プリシラを先頭に、彼女と俺とマリアの三人は塔を登っていく。
途中、破壊された真新しい機械人形や魔物の死体をいくつか見つけた。プリシラとスセリが倒したものらしい。
「それにしても高い塔ですこと」
マリアが額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐう。
当時の人たちは昇降機で移動していたのだろうが、長い年月を経て朽ちた今は、機械のたぐいはことごとく壊れてしまっており、歩いて登るしかなかった。
こういった『ビル』と呼ばれる塔を登るのはとても骨が折れる。単純に最上階まで登るのに体力と時間を使うし、途中で魔物や機械人形と遭遇することも多い。なので、浅い階層は調査が済んでいるが、高い階層は未調査という塔は多い。
この塔もその一つで、高層は未調査だった。
プリシラとスセリはその調査をしにいき、その途中、崩落に見舞われて離れ離れになってしまったのである。
「みなさん、止まってください!」
急にプリシラが立ち止まっって俺たちのほうを振り向く。
「魔物の気配がします」
彼女の頭の頂点に生える獣耳がぴんと立っている。
忍び足で慎重に歩を進める。
曲がり角から頭だけを出して、先を確かめる。
「いた。魔物だ」
曲がり角の先の部屋に魔物がいた。
ワーウルフと呼ばれるオオカミ頭の人型の魔物。プリシラのような獣人と似ているが、あちらのほうは人間よりも獣に姿が寄っている。そして知性と理性も獣そのもので、話し合いが通じる手合いではない。
ワーウルフは魔物の死骸を夢中でむさぼっている。
鋭い牙の生えそろった口の周りが血で赤く染まっている。
ワーウルフは俺たちに気づいていない。
先制攻撃をしかけよう。
「アッシュ!」
そのときだった――マリアが大声を上げたのは。
後ろを振り返ると、俺たちの背後にもう一匹のワーウルフが立っていた。
牙をむき出しにし、棍棒を振り上げて。
「はじけ!」
俺はとっさに防護の魔法を唱えた。
俺たちとワーウルフの間に魔法の障壁が出現し、棍棒の一撃を受け止めた。
くそっ、もう一匹いたのか!
死肉を食らっていたほうの血まみれのワーウルフが今ので俺たちの存在を察知し、グルルとうなりながら襲い掛かってきた。
プリシラがロッドを振るう。
一直線に走ってきた血まみれのワーウルフは、プリシラのけん制をよけるため、立ち止まって後ろに飛びのいた。
「こちらの魔物はわたしが相手をします!」
「まかせた!」
俺は棍棒のワーウルフに手をかざした。
俺の意思に反応し、魔書『オーレオール』から魔力が流れ込んでくる。
「放て刃!」
そして手から魔法の刃を飛ばした。
棍棒のワーウルフは両腕で防御する。




