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マリアがびしっと俺を指さした。
そうやって話しながら帰り道を歩いているうちに、徐々に霧が薄くなってきた。
足元までしか見えないような濃霧だったのが、今や先を見通せるほどになっている。
「それにしても、幼馴染ねー」
ノノさんが少し屈み、上目遣いで俺を見つめてくる。
「私もー、アッシュくんと幼馴染になりたいなー」
おもちゃをねだる子供みたいな口調で彼女はそう言った。
しかもウィンクまでした。
「幼馴染って、なるとかならないとかそういうのじゃないような……」
「だってー、うらやましいものー。私もアッシュくんともっと仲良しになりたいなー」
甘えるような声を出すノノさん。
「ダメですわ!」
マリアが腕を交差させてノノさんを拒絶した。
「あいにくですけど、ノノさんをアッシュの幼馴染にはできませんわ」
するとノノさんが頬をぷくーっと膨らませて不服をあらわにする。
「どうしてよー。減るものじゃないでしょー?」
「減りますわッ!」
減るのか……。
マリアが俺の腕に自分の腕を絡める。
「プリシラという手ごわい相手がいるというのに、これ以上敵は増やせませんわ。ノノさん。あきらめてくださいまし」
「ざんねーん……」
しゅんと落ち込んだノノさんであった。
「他人にやさしいのはアッシュの取り柄ですけど、言い寄る女性を誰もかれも受け入れるのは感心しませんわよ。幼馴染として。婚約者として」
「す、すまない……」
謝るしかなかった。
それからしばらく歩き、ついに俺とマリアのノノさんの三人は霧深き森から脱出できた。
降り注ぐ日差しがまぶしくて目を細める。
「やっと出られましたわね」
「今日はありがとうね。アッシュくんにマリアちゃん」
「これも仕事ですから」
「仕事といえば、報酬を渡さなくちゃね」
カバンをあさりだしたノノさんを俺が止める。
ノノさんは報酬と手数料を含めた依頼料を冒険者ギルドにすでに支払っているはず。
なので冒険者は基本、ギルドを介して報酬を受け取る。依頼人から少額のチップをもらうことはあるが。
「あっ、そういえばギルドにお金を払ったわね。あれが依頼料だったのねー」
「ノノさんて、相変わらずお金に無頓着ですよね」
「うふふっ」
「一応言っときますと、ほめてはいませんよ」
そしてケルタスに帰ってきた俺たち。
冒険者ギルドに行く前に、ノノさんを宿に送り届けた。
ノノさんは大通りに面した上等な宿を借りていた。
やはりお金には無頓着のようだ。
「アッシュくんたちはどこに泊まってるの?」
「路地裏にある『夏のクジラ亭』っていう宿ですよ」
「『夏のクジラ亭』ね。今度遊びにいっていいかしら」
「はい。『夏のクジラ亭』の料理、驚くほどおいしいですから食べていってください」
「まあっ、それは楽しみね」




