5-2
今思えば、村長に相談すれば部屋の一つくらい貸してくれたかもな。
しかしもはや手遅れで、俺とプリシラは小さな部屋にいっしょにいた。
当然だが、ベッドは一つのみ。
それも狭い。
二人で寝るには密着しないといけない。
「酒場のお料理、おいしかったですね」
部屋を借りたあの後、俺とプリシラは村の酒場に行って夕食を食べたのであった。
ちょうど仕事終わりの村の男たちが集まっていて、小さな村とは思えないほど酒場は賑やかだった。
俺たち部外者は隅のほうの席にひっそりと座って、パスタを食べた。
旅人が来たのが珍しかったのだろう。村の男たちは俺たちにも絡んできた旅の話をせがんできた。
ランフォード家を追放され、冒険者になった自分たちの身の上を話して聞かせると、男たちはその礼とばかりにピザをおごってくれたのであった。
そして今に至る。
太陽は完全に没し、窓の外は暗く、黒い空には黄色い三日月。
もう寝る時間だ。
そう、眠りにつく時間なんだ……。
けれど俺とプリシラは部屋で立ち呆けている。
な、なんか気まずい……。
「さ、さて、寝るか」
「はっ、はいっ」
と言ったが、どちらもベッドに入ろうとしない。
プリシラがちらちらと俺の顔をうかがっている。
……これは、俺が先に入るべきなのか?
「じゃあ、俺から入るぞ」
俺は靴を脱いでベッドに潜る。
質素なベッドは堅く、シーツも肌触りが悪い。
俺は壁際にギリギリまで寄って、プリシラが入れる隙間を空けた。
それでもプリシラはベッドの前で立ちすくんでいる。
「プリシラ……?」
「では、失礼します!」
するとプリシラはおもむろに腕を交差させ、服を脱ぎだした。
メイド服を頭から脱ぎ、下着姿になる。
彼女の起伏に乏しい身体の輪郭があらわになる。
下半身の部分はぴったりと肌に張り付いているが、胸を覆う布地は平たい乳房を隠す機能だけを果たしており、ゆったりとしたものだった。
「メ、メイド服のままではベッドに入れませんから……」
顔を真っ赤に染めて恥じらうプリシラ。
それからゆっくりとベッドに入った。
狭いベッド。
必然的に密着状態になる。
彼女の肌と俺の肌が触れ合う。
彼女の体温が伝わってくる……。
「アッシュさま……」
ささやきと共にこぼれる、熱をはらんだ吐息。
身をよじらせると彼女の肌に否応にも触れてしまい、そのやわらかな感触があまりにも気持ちよく、正気を狂わせてくる。
弾けそうになる理性をどうにか制御する。
二人の体温がベッドにこもってひどく熱い。
プリシラがまどろんだ瞳で俺を見つめてくる。
その瞳が背を向けようとするのを許さない。
「アッシュさま」
俺の名を呼んでいるだけなのに、冷静さを揺さぶってくる。
己の葛藤と必死に戦う。
ここで手を出したら、俺は彼女の純粋さを奪うことになる。
目の前には下着姿の少女……。
背中に手を回すくらいなら……いや、ダメだろ!
耐えるんだ、俺。
長い劣情との戦いの末……。
「……すぅ……すぅ」
やがて彼女のまぶたが完全に閉じると、静かな寝息が聞こえてきた。
眠ってくれたか……。
ほっとする。
ようやく肩の力を抜くことができた。
そして彼女に背を向け、俺も目を閉じた。
――なんじゃ。つまらんのう。
頭の中に聞こえてくる声は無視した。




