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44-3

 青い炎に包まれる『ゴスペル』。


「スセリ! どういうことだ!」

「見てわからんのか。『ゴスペル』を処分しておるのじゃ」


 困惑している間にも『ゴスペル』は青い炎に焼かれていく。

 スセリはにやりと笑みを浮かべながらそのようすを見上げている。

 炎の青い光が彼女の顔の陰影を濃くしている。


 青い炎に包まれた『ゴスペル』は、やがて完全に焼き尽くされ、跡形もなく消滅した。

 青い炎が消える。


「『ゴスペル』はどうなったんだ……」

「塵も残らず焼いたのじゃ」


 どうしてそんなことを……。

 俺はスセリの突拍子もない行為に戸惑うばかりだった。


「あの魔書が悪しき者の手に渡れば、世界が破滅に陥る可能性がある。だから処分したのじゃ。エル・エルリオーネに代わってな。使いこなせず持て余すくらいなら、いっそ消し去ってしまったほうがよいじゃろう?」


 俺は返事ができなかった。


「万能の魔書は『オーレオール』だけでじゅうぶんなのじゃ」


 それが彼女の本音だった。

 小さな少女は野心を感じる不敵な笑みを俺に見せていた。


「ついでだから言っておくのじゃ。アッシュよ。いつかおぬしが精霊剣承をなしたとき、精霊剣を破壊するのじゃ」

「……それは、いいことなのか? 悪いことなのか?」

「善悪など、見る角度によって変わるものなのじゃ」


 立ち尽くす俺のそばを通り抜けるスセリ。


「やることは済ませたし、もう寝るのじゃ。おやすみなのじゃ」


 結局、そんな出来事があったせいで俺は一睡もできなかった。

 善か悪か。

 スセリに対してその問いかけをするならば、答えは後者のような気がしてならなかった。


 精霊剣承とはなんなのか。

 スセリはなにを企んでいるのか。


 月が沈むのと同時に夜が明けて太陽が昇る。

 目を覚ました小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。


 朝食の時間になって部屋を出ると、廊下を掃除しているプリシラと会った。


「おはようございます、アッシュさまっ」


 微笑ましい、元気いっぱいのあいさつだった。


「プリシラ、クラリッサさんの手伝いをしているのか?」


 以前、宿の手伝いを申し出たことがあったのだが、クラリッサさんは客である俺たちに手伝いをさせるのをかたくなに拒んだ。一度、大雨が降った日に雨漏りを修理する手伝いはしたが、それくらいだ。

 それなのにプリシラは今、廊下の掃除を手伝っている。


「わたしたち、もう少しでケルタスを出るじゃないですか。この『夏のクジラ亭』――クラリッサさまやヴィットリオさまにはとてもお世話になったので、どうしても恩返しがしたくて」

「そういうわけか」

「はい。ちょっと強引にお手伝いさせてもらったんです。もしかしたら、かえって迷惑だったかも……」

「そんなことないさ。クラリッサさん、きっとよろこんでるさ」

「だ、だといいんですが」


 それから俺とプリシラ、そして後からやってきたマリアとスセリの四人で朝食をとった。

 スセリはいつもと変わらないようすでパンを食べてスープを飲んでいた。

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