44-2
その夜、俺は真夜中にふと目が覚めた。
もう一度寝ようと目を閉じるも、なかなか寝つけない。
完全に目が冴えてしまった俺は、寝るのをあきらめた。
部屋を出て、暗く静かな廊下を歩く。
歩くたびに床のきしむ音がする。
裏口から庭に出る。
――そこに、銀髪の少女がいた。
少女は古びた書物を片手に持ち、満月の飾られた夜空を仰いでいる。
月明りに銀色の髪が輝いている。
はかなげな表情をした横顔。
美しい絵画のような光景に神秘性を感じた俺は息をのんだ。
「……スセリ」
「ん? なんじゃ、アッシュか」
銀髪の少女――スセリがこちらを向いた。
「なにをぼけっと立っておる」
「い、いや……」
スセリに見とれていた――とはさすがに言えなかった。
しかし驚いた。まさかこんな時間のこんな場所でスセリと出くわすなんて。
スセリのほうも、まさか俺と会うなんて思いもよらなかったと言いたげな顔をしていた。
「スセリも眠れないのか?」
「いんや。ワシはベッドに入って目を閉じれば一瞬で眠れるのじゃ」
「う、うらやましいな……」
「夢の中を自由に動くことができて、自分の意思で起きようと思えば起きれるのじゃ。のーじゃじゃじゃっ」
「それも『稀代の魔術師』だからか」
「いんや、これは普通の人間でも訓練すればできるのじゃ。おぬしに伝授するのじゃ」
「べ、別にいい……」
のじゃのじゃ言い出した途端、彼女からはかなさやら神秘性やらが一瞬にして消え失せた。
スセリ……。黙っていればきれいな女の子なんだがな。
しかし、眠れないわけではないのなら、スセリはここでなにをしていたんだ?
しかも手に持っている書物は、彼女に預けた魔書『ゴスペル』だ。
俺の疑問に視線で気付いたスセリは「これか?」と『ゴスペル』を持ち上げた。
「ワシはこれを処分するために待っておったのじゃよ」
処分?
待っていた?
不穏な言葉がスセリの口から出てくる。
「魔法の力は本人の魔力だけではなく、場所や時間も影響を及ぼすことは知っておるな?」
「『オーレオール』に書いてあったな」
「時間はとりわけ、日付の変わる時刻に近づくにつれ、魔法の力を高める。やはり日と日の境目というのは不思議な力を持っているのじゃろう。ワシは日付が変わる時間を待っておったのじゃ」
外の出る前、部屋の時計を見たときは、日付の変わる時刻に近かった。
そろそろ日付が変わるころ。
「まもなくじゃな」
スセリが懐中時計に目をやってつぶやく。
それから『ゴスペル』を空高くに掲げた。
その格好のまま、しばらくたたずむスセリ。
雲がはれて満月が完全姿を現したそのとき、スセリはこう唱えた。
「滅せよ!」
魔書『ゴスペル』はスセリの手から離れて宙に浮き、そして――発火した。




