1-3
ウ、ウソだろ……。
かちゃり。
カギが半回転すると、施錠の開く音が小さくした。
途端、カギが光を帯びて消滅する。
それから手も触れていないのに扉がひとりでに開きだした。
重い音を立てながら扉がゆっくりと開いていく。
やがて扉は完全に開いた。
心臓が早鐘を打つ。
逃げようか。
しかし、俺の中の強い好奇心が背中を押す。
しばらくの迷いの後、俺はゆっくりと一歩、扉の向こうに足を踏み入れてしまった。
地下室の狭く長い通路は魔法の力によって照明がついていた。
ほの暗い地下通路を慎重に進んでいく。
この先に初代当主の家宝があるのか。
長い通路を進んだ先には広い空間が広がっていた。
だだっ広いその中心には台座がある。
そして台座の上に一冊の古びた書物がふわふわと浮遊していた。
それ以外、この空間には何もなかった。
慎重に近づき、台座の前に立つ。
俺の目の前には、魔法の力で浮遊している書物。
これが家宝……。
一見したところ、ただの古びた書物だ。
ためらいはほんのわずかな時間しかなかった。
俺は腕を伸ばし、その書物に手を触れた。
そのときだった――激しい閃光と共に衝撃が襲ってきたのは。
俺は真後ろに吹っ飛ばされる。
「いててて……」
したたかに壁に打ち付けた後頭部をさする。
それからゆっくりと目を開ける。
すると、俺の目の前に一人の少女が立っていた。
「おぬしか。ワシを目覚めさせたのは」
美しい銀色の長い髪の少女だった。
その小さな背丈から察するに、年齢はプリシラと同じ12歳か、あるいはそれよりも幼いか。
そしてこの少女は裸だった。
一糸まとわぬ姿。
緩やかな曲線を描く未成熟な幼い身体。
少女は全裸を俺の前でさらしていた。
しかし少女はまったく恥じらいを見せず、腰に手を当てて、へたり込む俺を見下ろしている。
「ん? おっと、忘れておったわい」
パチンッ。
少女が指を鳴らすと、彼女は瞬時にして衣服を身にまとった。
「おぬしがワシを目覚めさせたのか」
もう一度、少女は問うてきた。
「だ、誰だ、お前は……」
「無礼な。ワシはランフォード家初代当主、スセリぞ」
スセリ。
それが少女の名前だった。
ランフォード家初代当主だって!?
なんでいきなりそんな人が俺の目の前に現れたんだ!?
っていうか、どうみても幼い女の子なんだが!?
困惑する俺を置いて、スセリと名乗った銀髪の少女は台座に落ちた書物を手に取る。
「おぬしが触れたのであろう。この万能の魔書『オーレオール』に」
少女が『オーレオール』と呼んだ書物を俺に差し出す。
それを受け取る。
そうだ。これに触れた瞬間、まぶしい光と共に吹っ飛ばされて、それからこの少女が現れたんだ。
「封印を破りし者よ。今より『オーレオール』はおぬしに継承された」
スセリの姿が半透明にかすむ。
「継承者として、この万能の魔書を用い、我が使命を果たすのじゃ」
そう言い残し、スセリの姿は完全に消えた。
残された俺は長い間呆然としていた。
今起きた出来事がまぼろしかなにかだと疑っていた。
俺の手には魔書『オーレオール』がある。
これが初代当主の家宝……。
地下室を出ると、開いた時と同様に扉はひとりでに閉じた。
押してみても引いてみても、びくともしない。
俺は屋敷の人間に見つからないよう、『オーレオール』を脇に抱えて忍び足で地下室を後にした。