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43-4

「やめろ! エル・エルリオーネ!」


 こんな試練、今すぐやめさせないと!

 しかし、俺の周囲にはエルによる障壁が張り巡らされており、俺は完全に閉じ込められてしまっている。


「プリシラ! 目を覚ますんだ!」


 必死の叫びもプリシラの耳には届いていない。

 プリシラとミューはそれぞれの武器を手にして対峙している。

 そのようすを眺めているエル。


「ミュー!」

「アッシュー……」


 ミューがこちらを向いた。


「ミュー! すぐにそのナイフを捨てるんだ!」

「彼の言葉に耳を傾けてはいけません。あなたはその刃でプリシラを貫くのです」


 エルはさらにこう言う。


「さもなくば、克己の試練を放棄したとみなし、あなたをエルリオーネの一族とは認めず、ギザの地から放逐します」


 黙りこくるミュー。

 まさか試練の最後にこんなものが待っていただなんて。

 いったいどうすれば……。

 焦燥が募るばかり。


「理不尽なことを言っているかもしれません。ですが、ミュー。エルリオーネ家を継ぐ者として、ギザの地を統治するには、ときには過酷な選択を迫られることもあります。あなたはそれを乗り越えねばならないのです」


 エルの口調には子供を想う母親の厳しさと愛情が感じられた。

 するとミューはこう尋ねた。


「プリシラと戦わないと、おうちから出ていかなくちゃいけないのー?」

「そうです」

「なら、おうちから出てくー」


 ミューは手にしていた短刀をぽいと投げ捨てた。

 固い床に金属の当たる音がカーンッと響き渡った。


 ミューは俺のほうを向く。


「アッシュー。ミュー、おうちから出ていくから、アッシュのおうちに連れてってー?」

「へ? あ、ああ……」


 俺はあっけにとられていた。

 重大な決断を、ミューはあっさりとしてしまったから。


「ミュー。それでよいのですか? 家にはもう二度と帰ることはできませんし、父親にも会えませんよ」

「いいよー。パパに会えないのはちょっとさみしいけどー」


 ミューは天使のような笑みを浮かべて言った。


「プリシラはミューのお友だちー。戦うことなんてできないー」

「……そうですか。あなたはそう選択しましたか」


 俺を閉じ込めていた障壁がなくなる。


「プリシラ!」


 すぐさまプリシラのもとへ駆け寄ろうとしたが、その途中、プリシラの姿がこつ然と消え失せた。


「あの少女の姿は、ミューの心から生み出した幻影です」

「……つまり、まぼろしだったのか?」

「だましていてすみませんでした」


 俺は安堵した。

 よかった。プリシラに害は及んでいなかったんだな……。

 だが、これでミューは克己の試練から脱落し、家から出ていくことになってしまった……。

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