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「やめろ! エル・エルリオーネ!」
こんな試練、今すぐやめさせないと!
しかし、俺の周囲にはエルによる障壁が張り巡らされており、俺は完全に閉じ込められてしまっている。
「プリシラ! 目を覚ますんだ!」
必死の叫びもプリシラの耳には届いていない。
プリシラとミューはそれぞれの武器を手にして対峙している。
そのようすを眺めているエル。
「ミュー!」
「アッシュー……」
ミューがこちらを向いた。
「ミュー! すぐにそのナイフを捨てるんだ!」
「彼の言葉に耳を傾けてはいけません。あなたはその刃でプリシラを貫くのです」
エルはさらにこう言う。
「さもなくば、克己の試練を放棄したとみなし、あなたをエルリオーネの一族とは認めず、ギザの地から放逐します」
黙りこくるミュー。
まさか試練の最後にこんなものが待っていただなんて。
いったいどうすれば……。
焦燥が募るばかり。
「理不尽なことを言っているかもしれません。ですが、ミュー。エルリオーネ家を継ぐ者として、ギザの地を統治するには、ときには過酷な選択を迫られることもあります。あなたはそれを乗り越えねばならないのです」
エルの口調には子供を想う母親の厳しさと愛情が感じられた。
するとミューはこう尋ねた。
「プリシラと戦わないと、おうちから出ていかなくちゃいけないのー?」
「そうです」
「なら、おうちから出てくー」
ミューは手にしていた短刀をぽいと投げ捨てた。
固い床に金属の当たる音がカーンッと響き渡った。
ミューは俺のほうを向く。
「アッシュー。ミュー、おうちから出ていくから、アッシュのおうちに連れてってー?」
「へ? あ、ああ……」
俺はあっけにとられていた。
重大な決断を、ミューはあっさりとしてしまったから。
「ミュー。それでよいのですか? 家にはもう二度と帰ることはできませんし、父親にも会えませんよ」
「いいよー。パパに会えないのはちょっとさみしいけどー」
ミューは天使のような笑みを浮かべて言った。
「プリシラはミューのお友だちー。戦うことなんてできないー」
「……そうですか。あなたはそう選択しましたか」
俺を閉じ込めていた障壁がなくなる。
「プリシラ!」
すぐさまプリシラのもとへ駆け寄ろうとしたが、その途中、プリシラの姿がこつ然と消え失せた。
「あの少女の姿は、ミューの心から生み出した幻影です」
「……つまり、まぼろしだったのか?」
「だましていてすみませんでした」
俺は安堵した。
よかった。プリシラに害は及んでいなかったんだな……。
だが、これでミューは克己の試練から脱落し、家から出ていくことになってしまった……。




