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43-1

 ミューが円筒形の物体を俺に渡してくる。

 慎重に鼻に近づけてにおいを嗅ぐ。

 甘い香り。

 口をつけて傾けてみると、口の中にあたたかくて甘い液体が入ってきた。


 ミューの言うとおり、中身はココアだった。

 この円筒形の物体は、飲み物を保管するためのものらしかった。

 ミューがココアが出てきた機械の別のスイッチを押す。

 今度はひんやりと冷えた円筒形の物体が出てきて、中身はリンゴのジュースだった。


 とりあえず、安全なものでよかった……。

 それにしても、うかつだった。もし危険なものだったら、ミューに害が及んでいた。

 もっと気をつけてこの好奇心旺盛な少女を見ていないと。


「いっしょにジュース飲もうねー?」

「あ、ああ……」


 俺とミューはソファーに腰かけながら、ジュースを飲んで休憩した。

 飲み物が出てくる装置と鉄の水筒とは、古代人も便利なものを作るものだ。

 それにしてもこの円筒形の鉄の水筒、フタを開けることはできるが閉めることはできないようだ。なんでこんなところで不便なのだろう。ふしぎだ。


 そういえば、この小さな部屋、ちょうどいい具合に空気が暖まっている。

 天井にある、格子のはめられた口から暖かい風が吹き出て、部屋を暖めているらしい。


「すー……す……」


 ミューは俺にしなだれかかって眠ってしまっていた。

 俺も押し寄せてくる疲労に抗えず、重いまぶたを閉ざしてしまった。


「――はっ!」


 そしてしばらくして目を覚ます。

 どれぐらい眠っていたんだ、俺は……。

 体感では一瞬だったが、実際はどうかわからない。


「ミュー。起きろ」

「ふえ……?」

「起きるんだ、ミュー。試練の続きしないと」

「ねむいー」


 俺はミューの肩を揺すり、どうにか彼女を夢の世界から連れ戻した。


「アッシュー。おんぶしてー」

「これはミューの試練なんだから、自分で歩かないと」

「ねむいー」


 俺もまだ眠いが、ここで立ち止まっていてはいけない。

 ミューをソファから立たせ、再び薄暗い灰色の通路を進んでいった。

 眠たげなミューはしきりに目をこすっていて、足取りもふらふらしていた。


 延々と続くコンクリートの通路を歩く。

 代り映えしない、退屈な光景。

 同じ場所を繰り返しずっと歩いているかのような錯覚に陥る。


「ねー、アッシュー。ミューたちなんでここにいるのー?」


 今更そんなことを尋ねてくるミュー。

 どうやらミューはよくわからず試練に挑んでいたようだ……。


「ミューの家のしきたりだろ? お父さんに言われなかったか?」

「言ってたけど、よくわかんなかったー。でもー」

「でも?」

「アッシュといっしょにいられて楽しいー」


 ほんわかした笑みを見せるミュー。

 小さな手で俺の手を握る。

 手と手が触れ合い、体温が伝わってくる。


 困った子供だが、俺は微笑まずにはいられなかった。

 ギザ卿が甘やかすのもよくわかる。

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