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ミューが円筒形の物体を俺に渡してくる。
慎重に鼻に近づけてにおいを嗅ぐ。
甘い香り。
口をつけて傾けてみると、口の中にあたたかくて甘い液体が入ってきた。
ミューの言うとおり、中身はココアだった。
この円筒形の物体は、飲み物を保管するためのものらしかった。
ミューがココアが出てきた機械の別のスイッチを押す。
今度はひんやりと冷えた円筒形の物体が出てきて、中身はリンゴのジュースだった。
とりあえず、安全なものでよかった……。
それにしても、うかつだった。もし危険なものだったら、ミューに害が及んでいた。
もっと気をつけてこの好奇心旺盛な少女を見ていないと。
「いっしょにジュース飲もうねー?」
「あ、ああ……」
俺とミューはソファーに腰かけながら、ジュースを飲んで休憩した。
飲み物が出てくる装置と鉄の水筒とは、古代人も便利なものを作るものだ。
それにしてもこの円筒形の鉄の水筒、フタを開けることはできるが閉めることはできないようだ。なんでこんなところで不便なのだろう。ふしぎだ。
そういえば、この小さな部屋、ちょうどいい具合に空気が暖まっている。
天井にある、格子のはめられた口から暖かい風が吹き出て、部屋を暖めているらしい。
「すー……す……」
ミューは俺にしなだれかかって眠ってしまっていた。
俺も押し寄せてくる疲労に抗えず、重いまぶたを閉ざしてしまった。
「――はっ!」
そしてしばらくして目を覚ます。
どれぐらい眠っていたんだ、俺は……。
体感では一瞬だったが、実際はどうかわからない。
「ミュー。起きろ」
「ふえ……?」
「起きるんだ、ミュー。試練の続きしないと」
「ねむいー」
俺はミューの肩を揺すり、どうにか彼女を夢の世界から連れ戻した。
「アッシュー。おんぶしてー」
「これはミューの試練なんだから、自分で歩かないと」
「ねむいー」
俺もまだ眠いが、ここで立ち止まっていてはいけない。
ミューをソファから立たせ、再び薄暗い灰色の通路を進んでいった。
眠たげなミューはしきりに目をこすっていて、足取りもふらふらしていた。
延々と続くコンクリートの通路を歩く。
代り映えしない、退屈な光景。
同じ場所を繰り返しずっと歩いているかのような錯覚に陥る。
「ねー、アッシュー。ミューたちなんでここにいるのー?」
今更そんなことを尋ねてくるミュー。
どうやらミューはよくわからず試練に挑んでいたようだ……。
「ミューの家のしきたりだろ? お父さんに言われなかったか?」
「言ってたけど、よくわかんなかったー。でもー」
「でも?」
「アッシュといっしょにいられて楽しいー」
ほんわかした笑みを見せるミュー。
小さな手で俺の手を握る。
手と手が触れ合い、体温が伝わってくる。
困った子供だが、俺は微笑まずにはいられなかった。
ギザ卿が甘やかすのもよくわかる。




