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機械人形を倒した先へと進む。
再び長い通路を俺とミューは歩く。
コンクリートでできた灰色の通路は他の遺跡と同じだが、唯一違ったのが、通路が一本道であることだった。
他の遺跡は通路を歩くといくつもの分岐路と出くわし、冒険者を迷わせるが、この克己の試練の遺跡は迷うことのない直線が延々と続いていた。
階段を上る。
階段は段差が高く、勾配も急だったので、俺はミューと手をつなぎながら上った。
ミューは足元を見ながら一段一段、ゆっくりと階段を上っていく。
「ふーっ。ついたー」
階段は結構長く、上り終える頃には俺もミューも息を切らしていた。
目の前には機械仕掛けの扉。
扉には赤く点灯する9個のマスが3個3列で並んでいる。
先ほどと同じ仕掛けだろう。
ミューがマスを触ると、マスの色が赤から青に変わった。
すべてのマスを青色にすると、扉は上にせり上がって開いた。
「なっ!?」
「うわー」
扉の向こうへ入った俺たちは、目の前の光景に思わず声を上げた。
奥へと長く続く長方形の空間。
前の部屋と比べ、かなり広い。
一番驚いたのが、足元に広がる巨大な空洞だった。
見下ろすと底知れぬ深淵。背筋が凍る。
そして、ところどころに立っている円柱の足場。
どうやらここは、この円柱に順番に飛び移りながら向こう側へ行かなくてはいけないらしい。
「えーいっ」
「ミュー!?」
ミューが突然、助走をつけて深淵に飛んでいった。
小さな跳躍で、一番近い円柱に着地する。
「アッシュー。おいでー」
俺は安堵の息をついた。
心臓が早鐘を打っている。
本当に突拍子もない子だ……。
俺も軽く助走をつけて跳躍し、ミューのいる円柱の足場に飛び移った。
足場の距離自体は大したことないが、万が一にでも足を踏み外したら暗い深淵に真っ逆さまだ。慎重にいかなくては。
「ミュー。俺が先に飛ぶから、それまで待っててくれ」
「わかったー。アッシュが最初ー」
俺はぴょんと飛んで、二つ目の足場に飛び移る。
ふう、と息をつく。
汗ばんだ手を服の裾で拭う。
それからその手を前に伸ばす。
「ミュー。俺のところまで飛んで」
「てーい」
思い切り跳躍したミューが俺の胸に飛び込んできた。
彼女を抱きとめる。
ぽふんっ。
軽い。
ミューのやわらかい髪が躍り、鼻をくすぐる。
そうやって俺とミューは次々と足場を乗り継いで、奥へと進んでいった。
そして無事、向こう側にたどり着いた。
「楽しかったー」
俺は緊張で手と足が震えていたのに、ミューはのんきな顔をしていて、あまつさえそんなことまで言ったのであった。




