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42-1

 それから夕食の時間になった。

 広い食堂で俺とプリシラ、それとミューにギザ卿の四人で食事をとった。


 出された食事はどれも豪勢で、白いクロスの引かれたテーブルに食べきれないほどの料理と果物が並べられ、まるで王城に招かれたかのようだった。

 このギザの地は大都市ケルタスから遠く離れていて、土地も痩せているが、やはり貴族ということもあり、客人をもてなすくらいの余裕はあるらしかった。


「いやー、ランフォード家のご令息と知り合えて光栄ですよ。がはははっ」


 酒の入ったギザ卿はじょう舌だった。

 食事している間、会話はほぼ彼の独壇場で、ギザの地やエルリオーネ家の歴史を延々と俺たちに語り聞かせていた。荒れ果てたギザの地を祖先が興したのを誇らしげに語っていた。

 一言で言うなら、自慢話。


 俺とプリシラはときおり顔を見合わせて苦笑いする。

 結婚の話題を持ち出されるよりはマシだな……。


 ミューは黙々と料理を食べていた。

 たが、彼女は身体が小さいせいで食も細いらしく、前菜も肉料理も半分も食べずに残してしまっていた。

 おなかがいっぱいになって眠くなってきたのか、ときおり目をこすっている。


「旦那さま」


 斜め後ろに立っていた執事が、一族の歴史を雄弁に語るギザ卿に遠慮がちに声をかける。


「あのお話はしなくてよろしいのですか」

「む。そうだったな」


 ぎくり。

 ついに結婚の話になるのか。

 俺は身構えたが、ギザ卿の口から出たのは意外にも全く別の話だった。


「実を言いますとな、アッシュさまのお力を貸していただきたいのです」

「アッシュさまの?」

「俺の力……?」

「我がエルリオーネ家には、あるしきたりがあるのです。それは『克己(こっき)の儀式』と呼ばれています」


 克己の儀式。

 ギザ卿がそう口にした。


 克己の儀式とは、10歳に達したエルリオーネ家の子に与えられる試練だという。

 ギザの地にある古代人の遺跡に踏み入り、その最奥に到達して儀式を行うことで、エルリオーネ家の正式な子として認められるのだとギザ卿は説明した。


「じゅっ、10歳で一人で遺跡に入らなくちゃいけないのですか!」

「まさか、遺跡には機械人形もいるのですか?」

「むろん、いますとも」


 なんとも無謀な試練だ。

 あどけない少女のミューがそんな危険な試練を達成できるなど到底思えない。遺跡に一歩踏み入った途端、機械人形の餌食となるのは明らかだ。


「ですが」


 とギザ卿は続ける。


「克己の試練には従者を一人連れていけるのです」

「そ、そうですよね。さすがに10歳の子供一人で遺跡に入るなんてできませんよね」

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