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俺は執事に案内された部屋で服を着替えた。
こんな上等な服、久々に着たな。
鏡に映る自分の姿を見て、ランフォード家で暮らしていた頃を思い出す。
着替えを済ませた後は屋敷の主人に屋敷の中を案内されながら、他愛のない雑談をした。
屋敷の主人はランフォード家との繋がりを持ちたいのが見え見えで、やたらと俺をおだててきた。
「アッシュさまに婚約者はいるのですかな?」
そう尋ねられ、一瞬、マリアの顔が思い浮かぶ。
「い、いえ、いません……」
すると、屋敷の主人はここぞとばかりにこう提案してきた。
「でしたら、我が家のミューはいかがですかな?」
そう言われるのは予想していた。
ミュー本人はプリシラと遊ぶために俺たちを招待したのだろうが、この父親の目的はこれだっのだ。
「少々歳は離れていますが、よくあることでしょう。是非ともミューの夫になって、このエルリオーネ家を継いでください」
「今は結婚のことは考えていません」
断ったつもりだったが、屋敷の主人は諦めが悪かった。
「父親の私が言うのもなんですが、ミューはとても目鼻立ちが整っております。ランフォード家の縁者になるのに恥ずかしくないと思っております」
確かにミューはかわいい。人形のような精巧な顔立ちと愛らしさがある。少しぼんやりとしたところがあるが、それも子供らしくてかわいい。
とはいえ、結婚するかどうかは別の話。
「ここがミューの部屋です」
屋敷の主人が目の前の扉を開けた。
部屋の中にはぬいぐるみがたくさんあり、その中心にミューとプリシラがいた。
二人はそれぞれクマとウサギのぬいぐるみを持っている。ぬいぐるみで遊んでいる最中だったらしい。
「ミュー。アッシュさまだよ。ごあいさつなさい」
「プリシラのご主人さまー?」
ミューがつぶらな瞳でじっと見つめてくる。
「ミューの名前はミュー」
「俺はアッシュ・ランフォード。よろしくな。プリシラと仲良くしてやってくれ」
「ミューとプリシラは仲良しー」
ミューはぽわんとした笑みを浮かべた。
プリシラもにこにこしている。
「プリシラ。その衣装、似合ってるぞ」
「は、恥ずかしいです……」
プリシラは桃色の薄い布地の衣装を着ていた。
メイド服を着ているときより幼い印象を受ける。
屋敷の主人も「とてもかわいい!」と褒めちぎった。
「ミュー。次はアッシュさまと遊びなさい」
「ミューはプリシラがいいー」
プリシラの腰に抱きつくミュー。
苦笑いを浮かべる屋敷の主人。
「アッシュさまは大事なお客さまだ。ちゃんともてなさなくちゃだめだよ」
「えー」
「プリシラのご主人さまなんだから」
しばし沈黙した後、ミューは「わかったー」と渋々うなずいた。




