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41-3

「これで準備は整った。魔剣アイオーンをワシらで取り戻すのじゃ」


 冒険者ギルドから出るや、スセリがそう言った。

 やけに口数が少ないと思ったら、やっぱりそうするつもりだったんだな。


「で、ですがスセリさま。ロッシュローブ教団って、とっても恐ろしい人たちなんですよ? ノーグ支部長も言ってたではありませんか」

「『稀代の魔術師』に恐れるものなどないのじゃ。魔剣アイオーンの奪還の支援を国王陛下にお願いするのじゃ」


 スセリはやはり大胆不敵。

 同じ不老の身のセヴリーヌもそうだが、魔法を極めた魔術師は、普通の人間とは根本的に物事の価値観やら考えかたやらが違うのだろう。無謀極まりない行為も、彼女たちにとってはなんでもないことなのだ。


「俺たちの周囲にも危険が及ぶって言ったのはスセリだろ?」

「だから迷惑がかからぬよう、ケルタスを出るのじゃろうが」


 なるほど。そういうことだったのか。


「わたくしたちで悪者をやっつけましょうっ」


 マリアも乗り気になっていた。

 あわあわとうろたえているプリシラ。

 ここは俺がびしっと言っておかないと。


「俺たちは国王陛下にお伝えするだけだ。わかったか?」


 するとやはり、スセリとマリアは不満げな顔になる。


「アッシュったら、それでも『稀代の魔術師』に選ばれし者ですの?」

「そうじゃそうじゃ」

「ダメなものはダメだ。お前たちがあくまでこの件に首を突っ込むつもりなら、王都グレイスに行くのは止めにするぞ。危機を伝えるならギルドからの書状だけでもじゅうぶんだろうからな」

「それだと王都観光ができませんわ!」

「アッシュのくせに生意気じゃのう……」


 二人はしぶしぶ諦めたようだった。

 スセリは内心どう思っているのかわからないのが心配だが……。


「王さまにおまかせすれば、きっとぜーんぶ解決しますよっ。なんといっても、王都にはグレイス騎士団がいますから。だから、みなさんで王都観光を楽しみましょうねっ」


 プリシラがにこにこしながらそう言った。



 用事を済ませ、『夏のクジラ亭』に帰ってきた俺たち。

 受付のカウンターの前にいたクラリッサさんが「おかえりなさい」とやってくる。


「手紙が届いてるわよ。プリシラちゃんに」

「わたしですか?」


 ぽかん、としながら自分を指さすプリシラ。

 プリシラに手紙だなんて珍しい。

 一体誰からだろう。


 クラリッサさんから手紙を受け取るプリシラ。

 手紙は立派な封蝋で封がされている。


「ミュー・エルリオーネ……」


 プリシラが送り主の名をつぶやく。

 エルリオーネ。

 以前、料理人の依頼で行った貴族の家の名。

 ミューはその家の娘だ。


「プリシラちゃんのお友だち?」

「お友だちと言いますか、なんと言いますか……」


 意外な人物からの手紙にプリシラは戸惑っている。


「気になるのう。早く手紙を読むのじゃ」


 スセリに急かされたプリシラは、手紙の封を解いて取り出した中身に目を通した。


「なんて書いてありますの?」

「アッシュさまとわたしをお食事に招待したいそうです」


 プリシラが俺に手紙を渡してくる。

 読んでみると、確かに俺とプリシラを食事に招待する旨が書かれていた。

 とてもきれいな字で、文体も丁寧だ。

 あのあどけない少女が書いたものではない。おそらくは、執事か誰かが代筆したのだろう。

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