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「あやつに魔剣『アイオーン』を渡してしまったが、『オーレオール』が無事ならまあ、よかろうなのじゃ」
「すまない、スセリ」
「プリシラは無事なのじゃな?」
「ああ。気絶しているだけだ」
「ならばよし、なのじゃ」
それにしても、スセリがどうしてここに。
俺とプリシラの行き先は言わなかったはず。
俺の表情から疑問を読み取ったらしく、スセリはこう言った。
「赤き月が昇る夜、アイオーンが覚醒するのじゃよ」
「スセリもアイオーンを知っていたのか」
「あたりまえなのじゃ。アイオーンは魔王ロッシュローブの剣なのじゃ」
魔王ロッシュローブの剣……。
ロッシュローブは古代人を滅ぼそうとした邪悪な存在。
古代人はロッシュローブを倒したが、その代償として文明の大半を失った。
「ナイトホークはアイオーンを手にしてなにを企んでいるんだ?」
「それよりもまず、ケルタスに帰るのじゃ。プリシラをベッドに寝かせてやらんとな」
治癒魔法でプリシラのケガを治した後、俺たちは遺跡を出てケルタスに帰った。
『夏のクジラ亭』に戻り、プリシラを部屋のベッドに寝かせた。
「マリアはどうしたんだ?」
「セヴリーヌといっしょに赤き月を眺めに出かけておるのじゃ」
宿のおかみのクラリッサさんが持ってきてくれた、濡れた手ぬぐいをプリシラの額に当てる。
「う……ん……」
冷たさを感じたのか、プリシラが意識を取り戻した。
薄く目を開け、顔を横に傾けて俺たちを見える。
「アッシュさま……。わたし……」
「もう大丈夫だ、プリシラ。ナイトホークはいなくなった」
「はうう……。申し訳ありません。役立たずのメイドで……」
「プリシラはよくやってくれただろ」
「やはりおやさしいですね。アッシュさまは」
スセリがイスに座り、窓から赤き月を仰ぎ見る。
「アッシュよ。驚いたのはワシのほうじゃぞ。まさかおぬしらがアイオーンのもとにいるだなんて」
「プリシラといっしょに赤き月の花をさがしていたら、偶然遺跡を見つけたんだ」
「なるほどのう……。これも運命かのう」
赤き月は夜の路地裏を不気味に赤く染めている。
床にも窓枠で四角く切り取られた赤い光が落ちていた。
「人知れずアイオーンを破壊しようと思っておったが、ナイトホークに先を越されてしまうとは」
「ナイトホークはアイオーンを手に入れてどうするつもりなんだ?」
魔王の剣。
ただの強い魔力を持った武器ではなさそうだ。
おそらく別の――それもとても恐ろしい物なのだろう。
「精霊剣承をするってあいつは言ってたが」
「あやつが精霊剣承についても知っておったとするとやはり……」
あごに手を添えて考え込むスセリ。




