40-5
ナイトホークが漆黒の剣アイオーンを握る。
すると、アイオーンから黒いもやのようなものが染み出てきて、ナイトホークの手を這いずって全身にまとわりついた。
「ククク……。これが魔王ロッシュローブの力か」
無表情を保っていたナイトホークが口の端をつり上げた。
ナイトホークが腕を上げると、アイオーンは台座からするりと抜けた。
赤く脈打つ漆黒の刀身があらわになる。
「これで精霊剣承をなすことができる」
精霊剣承。
こいつもそれを知っているのか。
一体なんなんだ。精霊剣承とは。
「『オーレオール』の継承者よ。私は今、魔王の力の片鱗を手に入れた。もはや貴様らでは私にはかなうまい」
「やってみなければわかりません!」
あくまでも戦う気でいるプリシラ。
「愚かな」
ナイトホークがアイオーンを軽く払う。
すると、見えざる力によってプリシラが真横に吹き飛ばされた。
壁に背中を打ちつけるプリシラ。
「プリシラ!」
俺はぐったりと倒れたプリシラに駆け寄って抱き上げた。
……息はしている。
どうやら壁にぶつかった衝撃で気絶しただけらしい。
アイオーンの切っ先を俺たちに向けるナイトホーク。
「継承者よ。『オーレオール』を私によこせ。そうすれば命だけは助けよう」
「くっ……」
アイオーンが恐るべき魔力を秘めているのは俺にもわかる。
そんな剣を手にした相手を、しかも気を失ったプリシラを守りながら戦うなんて無謀に等しい。
だとすれば、『オーレオール』を渡すしかない……。
観念して『オーレオール』を渡そうとした――そのときだった。
「そこまでなのじゃ!」
俺たちの前に一人の少女が現れた。
銀髪の少女――スセリだった。
「『稀代の魔術師』……」
「アッシュのようなひよっこならアイオーンを手にしたおぬしにはかなうまいが、ワシならどうじゃ?」
「魔王の力に歯向かうというのか」
「ワシは別に構わんぞ。ここでおぬしと刺し違えたとしても、すぐに新しい肉体に魂を移せば済む話じゃからな」
「……」
黙りこくるナイトホーク。
しばらく沈黙を続けた後、己の不利をさとったのか剣を下ろした。
「私の行く手を阻むなら、貴様の後継者もただでは済まんぞ」
台座から降りたナイトホークは出口へ向かってゆっくりと歩いていく。
スセリはその場から動かない。
やがてナイトホークはスセリの横を通り過ぎる。
「精霊剣承をなすのは貴様ではない。この私だ」
そして俺たちの前から去っていった。
ナイトホークがいなくなると、スセリは「やれやれ、なのじゃ」と肩をすくめた。




